2024年8月12日月曜日

司馬遼太郎「尻啖え孫市」(1964)

司馬遼太郎「尻啖え孫市」を読む。講談社文庫2007年新装版で読む。この版がとても字が大きく読みやすい。昭和38年7月から週刊読売に1年間連載されたもの。

信長の時代の鉄砲集団・紀州雑賀衆を率いる雑賀(鈴木)孫市を描いた歴史小説。
自分、この人の存在を最近までまったく認識していなかった。それどころか雑賀衆の存在も見えていなかった。自分の人生において紀州はまだ一度も踏んだことがなく土地カンも何もない。

元亀元年二月の岐阜城下に、従者二人だけを連れて、八咫烏の印の入った真っ赤な袖無羽織姿に日本一と書かれた旗竿の大男・雑賀孫市が現れる。信長がこの男に興味。木下藤吉郎にマークさせる。
時代は反信長包囲網。雑賀衆3000人を率いるこの男が誰に味方するのか?それは戦国パワーゲームを左右する。この男は金払いのよい方にしかなびかない。藤吉郎はやりづらい。

そして信長は一乗谷の朝倉を攻める。孫市は50人ほど連れて行く。だが妹婿の浅井が裏切り。慌てて撤退。
孫一は織田家臣ではない。藤吉郎との友情に義を感じて金ヶ崎に残って助ける。雑賀の鉄砲が藤吉郎を救った。

孫市は信長の末妹・加乃を欲しいという。え、そんな妹いないけど?孫市は以前に京で見かけたという。藤吉郎は織田の分家筋から年頃の娘を加乃に仕立て上げる。
だが、その急ごしらえの女は加乃ではないとバレる。このへんのラブアフェアはいつもの司馬の創作に違いない。大人のための娯楽読み物。

国許に帰ればそこには浄土真宗の門徒たち。領主の息子の言うことを誰も聴かないw 
そして探し求めていた女がそこにいた。え、高貴な血筋の姫?神道の名家なのに新興の浄土真宗門徒?人々の尊崇を集める法専坊信照に心を寄せている?
堺で鉄砲鍛冶の名人仙斎の娘小みちが鉄砲の氏神種子島家の胤だと知って、今度はこの娘に夢中。

石山本願寺に侍大将として入って仏敵信長を討て!得度を受けてない孫市は慎重だったのについに顕如と面会。そして信長と合戦へ。
侵攻してくる信長軍を何度も蹴散らす孫市。この人は鉄砲による軍略の才能はすごかった。だが、政治の感覚とリーダーとしての資質はどうだったのか?

信長は長島の一向一揆を大群で殺戮し殲滅。いよいよ石山本願寺と天下分け目の決戦。これまでにない本気の大群。そこには佐久間、堀、そして秀吉。
だが、やはり守る孫市は強かった。またしても雑賀川で信長軍を散々に蹴散らす。このときの活躍がまるでスナイパー大名。

これで当分の間、信長は攻めてこないだろう。だがその後、謙信が死に、丹波の波多野が滅ぼされ、播州三木城の別所長治も自刃。信長は強くなりすぎた。
石山本願寺も顕如の意向で降伏。孫市はもう息子(息子も孫市)に雑賀衆の領主の座を譲って隠居状態。
そして本能寺の変。信長は死に、秀吉の天下。最後の仕上げは徳川との決戦。秀吉と家康から雑賀衆は誘いを受ける。息子孫市は家康につくも、両者は講和。

その後、雑賀孫市はふらっと秀吉に会いにいったまま死んだ。え、死因は?!
それが詳しいことは不明。謀殺されたのか、単なる急死か。読者は突然そこに放置されるように終わる。この人はいつもふらっと単身でいなくなる習慣を持っていた。風吹峠を越えていく姿を見たのが最後だった。

司馬先生は孫市を好色に描いてしまい、連載中から日本各地から抗議の手紙が来たそうだ。雑賀衆の末裔たちの全国組織がある?!東京方面でリーダー各の川崎の「さいか屋」は雑賀の末裔?!

この本、ボリュームのわりに1ページあたりの活字密度が低くてさらさらページをめくれる。たぶん上下巻を1日で読める。

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