2024年8月1日木曜日

ロフティング「ドリトル先生アフリカゆき」(1920)

今までいちどたりとも開いたことのない「ドリトル先生」を読む。これは7,8年前にBOで108円で購入した井伏鱒二訳の1961年岩波書店版の1977年39刷。

作者のヒュー・ロフティング(1886-1947)はイングランド人とアイルランド人の血が半々という家系。パブリックスクールに通っていたのでそれなりの上流階級。
第1次大戦にアイルランド人部隊に将校として従軍。子どもたちへどんな手紙を書いたらよいのか悩む。そこでこのドリトル先生の物語が生まれた。

「The Story of Dr. Dolittle」は本来なら「ドゥーリトル先生の物語」と訳すべきだが、井伏鱒二は「ドリトル先生アフリカゆき」というタイトルをつけた。この本を石井桃子が井伏に紹介したのが、日本人が中国との戦争に疲れはじめていた昭和16年。

この本の舞台はいつごろだろう?ロフティングのおじいさんがこどもだった時代と書かれている。ということは19世紀中ごろだろう。英国人は普段からシルクハットをかぶってる。

ドリトル先生はロフティングによる挿絵から判断すると、腹がでっぷりしてるので中年男性だろうと思ってた。初老かもしれない。妹と二人暮らしだが、ともに結婚はしていない。文学作品でよく見る昔の英国中流階級以上の人々は独身者が多い印象。

巻末に第2作から12作までの詳細なストーリー紹介がある。1961年にはまだネタバレという概念はなかったらしい。
1926年発表の第6作「ドリトル先生のキャラバン」は、先生が飼ってるカナリアの歌がオペラになって上演されるという話なのだが、そのオペラ公演にパガニーニが来場という場面がある。とうことはドリトル先生シリーズはヴィクトリア女王時代よりちょっと前の時代か。
巻を重ねるにつれて、挿絵のドリトル先生がどんどんスリムになって若返ってる気がする。最初は初老男性かと思ってしまったが、青年かもしれない。

やはり1920年に大英帝国時代を書いた児童書なので、現代の子ども向け図書としてはふさわしいとは思えない。話が荒唐無稽な英国田舎紳士ファンタジー。

パドルビーという町の医師ドリトル先生は、どんどん飼う動物が増えていき、どんどん患者が寄り付かなくなる。年収が6ペンス。
オウムのポリネシアに動物語を習う。あらゆる動物と言葉が交わせるようになったので獣医へ。
だが、庭の池で飼ってるワニを怖がって動物を診てもらいにくる人も少なくなる。

アフリカで猿たちが疫病で死んでいるとツバメに知らされる。お金はないけどアフリカへ行こう!
以前に子どもを診て助けたという船乗りから帆船を借り受ける。え、船長も熟練した船員もなしでアフリカへ?無謀すぎる。
借りた船なのに座礁w どうやって補償するんだよ。それに徒手空拳でアフリカに渡ってどうやって猿たちの疫病を治療するんだ?

アフリカの王様に捕らえられる。
アフリカの王子が顔が白くなれたらなあ!と願ってる。ドリトル先生は薬品を調合して王子の顔を白くするw 王子は大喜び。
アフリカの黒人が白くなりたいと願ってるとか、その設定が白人ファンタジー主観でとんでもない。いや、白くなりたい願望を持つ黒人がいるかもしれないけど、大英帝国人が描くのは今は無理。ロフティングによる挿絵の黒人もやたら醜く描いてて酷い。

欧州は地中海と大西洋をバルバリア海賊に悩まされていた。ドリトル先生の船も襲われる。だが、賊を改心させるのでなく、サメや動物に食わせるぞ!と恐喝して農民にさせるとか何なの?
海賊から逃れて4日間飲まず食わずの男。嗅ぎタバコで命をつないでた…って、そんなこと可能なの?

頭がふたつある動物をイギリスに連れて行って見世物にして儲けるとかアリなのか?
海賊を退治したお礼に漁師町の町長から純金の首輪が飼い犬に贈られる。犬は隣家の犬に首輪を見せつける。「くるったように」庭を走り回る。
ああ、嫌な話。お金持ちの娘がハイブランド服を着て周囲に見せつけるようなものだな。

岩波書店児童書の巻末解説で、あたりまえかもしれないが誰もポリコレについて触れていない。
今現在もこの井伏鱒二訳が読まれているのだが、「南無三!」とか「大ばかの三太郎!」とか言葉はさすがに古い。

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