2024年4月27日土曜日

島田荘司「漱石と倫敦ミイラ殺人事件」(1984)

島田荘司「漱石と倫敦ミイラ殺人事件」(1984)を1994年光文社文庫版で読む。島田荘司を読むのは久しぶり。
この本は文庫本でいくつか出てるけど、この版は「ウィリアム・モリスのラッピング・ブック」から採られた表紙装画が良い。

事件の舞台はプライオリィ・ロードのリンキィ家のお屋敷。資産家の老人と結婚したのだが子のないまま夫を亡くしたリンキィ未亡人。召使夫婦と三人暮らしであったが、若いころに行き別れ長年行方不明だった弟キングスレイと再会し一緒に住み始めた。
この弟が中国に滞在してたときに事件に巻き込まれ、中国人から呪いをかけられたという。数々の奇行と精神錯乱。そして屋敷の部屋で一晩のうちにミイラになって死んでいたという怪奇事件。

明治33年、夏目金之助は留学生として単身、遠い異国のロンドンに居る。気難しく憂鬱な気質の若者はホームシックだしノイローゼ気味。家賃の節約のためにアパートを転々としてるのだが、「出て行け」という幻聴を聴いている。
相談相手もいない夏目は大学の先生に相談。ロンドンで有名なシャーロック・ホームズに相談することを勧められる。

この夏目漱石目線のシャーロック・ホームズが、コカイン中毒のせいで精神に異常。ホームズが天然だし推理もてんで的外れ。落語好きで後の文豪にはホームズがこう見えていた?ひねくれて辛辣な漱石ならではの人間観察と描写。

漱石主観で綴られた場面が、次の章ではワトソン目線になる。ワトソン主観だとホームズは風変りであっても割とマトモな紳士。
漱石主観のホームズが捧腹絶倒。ホームズは頭の切れるワトソンによって創られたイメージ?!

てか、漱石がヴィクトリア女王が亡くなる前後にロンドンに滞在していたのは歴史上の事実だが、ホームズとワトソンは創作上の人物。漱石がホームズに会った事実はもちろんない。序文の段階でもっともらしくて笑う。フィクション世界に読者を引き込む。

二次創作ホームズパロディでありながら夏目漱石パロディ。感心しかない。
それに、いかにもホームズとワトソンのしそうな会話と文体。未発表のホームズ譚としてリアルにありそうな内容。
そしてしっかり夏目漱石の個性も掴んでる。楽しい読書の時間をくれた一冊だった。余韻を味わった。ラストで笑えた。

0 件のコメント:

コメントを投稿