2024年3月30日土曜日

早坂吝「しおかぜ市一家殺害事件 あるいは迷宮牢の殺人」

早坂吝「しおかぜ市一家殺害事件 あるいは迷宮牢の殺人」(2023 光文社)を読む。
名前を「はやさか りん」と読んでたのだが「はやさか やぶさか」と読む作家だと知った。
初めて読む作家なのだが、京大文学部卒でミステリー研だった人らしい。

主人公の餓田は教育熱心な母に厳しく育てられたのに、三浪しても三流の大学にしか入れずやがて中退。派遣で工場で働くのだが、仕事にも上司にも嫌気。ひねくれる。そして母は認知症。

駅で女性に故意にぶつかっていく「ぶつかり魔」の中年男性を発見。日頃のうっぷんを晴らそうと尾行。だがそれは被害者女性の方。ぶつかられたのに下卑た笑みを浮かべてたのが気に入らない。人けのない路地でボコボコにする。

そして今度は側頭部に円形脱毛症のある「ぶつかり魔」男性を見かけて尾行。自宅を突き止める。そして準備してから押し込み強盗。自暴自棄と、ほぼラスコーリニコフのような論理の言い訳。これが凶悪強盗殺人犯の心理か。

鉢合わせになった男性をバットと包丁で滅多打ち。物音に気付いたその美人妻も殺害。さらに、部屋にいた耳の聞こえない娘を凌辱した末に殺害。金庫から5000万円をうばって逃走。凶器などは海に棄てた。これは倒叙型の犯人目線犯罪小説か?

女刑事登場。非番なのに起こされる。なにせ一家三人惨殺という凶悪事件。
名探偵になりたくて警察官へ。やっとのことで刑事に。有栖川有栖「双頭の悪魔」に出てくる刑事にあこがれてアルマーニの黒スーツ。しかし公務員が高いスーツ着てると聴きこみで反感買うので着るなと言われる…。

だが、ここから先、急に現実感のない話になる。どうやら作中小説?拉致されてきた男女が迷宮で目を覚ます。この7人は6件の有名未解決事件の犯人?!それぞれに犯行で使用された凶器が与えられている?
「そして誰もいなくなった」「バトルロワイヤル」のような展開。殺し合いをして生き残った一人が脱出できるというデスゲーム?
登場人物が微妙に、しおかぜ市一家殺害事件に出てきた名前と似ている…。

迷宮牢にいる迷惑系ユーチューバーがやたら話コトバの語尾に「w」をつける。しかもだんだん増えていく。wwwwww こいつが超絶ウザいw これが世間のユーチューバーイメージか。

たぶん、現実世界と虚構小説世界がラストでシンクロして、たぶん叙述トリックなんかがあって読者を驚かすタイプのミステリーか?と思った。
それは合ってるようで合ってない。あんまり詳しくは語れない。
ラストで意外な犯人を指名し逮捕してスッキリ。担当刑事がわりと有能だった…という社会派。しかし、そこはすべて端折った内容。

しかし、犯人のとある性格と特徴は読者にやんわり示しながら秘匿されている。そこの違和感に気づいたら、読者の勝ち。自分は迷宮牢にいたヴァイオリニストの手に関する箇所で最初に「?!」って思った。でもそういった箇所はミステリーマニアのツボをついてくるのかわからない。
入念に緻密に設計構成されている。怖くて辛辣なラストだが、やりとりにユーモアも感じた。まあ、予想外の展開で楽しませてもらった。なかなか野心作。

あと、餓田の書店での平積みミステリー小説への心の声に笑った。悪態とツッコミが、なんだか自分と似てたw

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