2024年3月23日土曜日

スティーブン・ジョンソン「音楽は絶望に寄り添う」(2018)

スティーブン・ジョンソン「音楽は絶望に寄り添う」(2018)という本が2022年10月に河出書房新社から邦訳(吉成真由美訳)が出ていた。なんとなく読み始めた。
HOW SHOSTAKOVICH CHANGED MY MIND by Stephen Johnson 2018
重度の双極性障害で死の淵をさまよったBBCの教養番組プロデューサーの心を救ってくれたのはショスタコーヴィチの音楽だった!という本。
ショスタコーヴィチ研究学術本というわけでなく、スコアを詳細に分析するような音楽学の本でもなく、スターリン体制下の抑圧を生き抜いた天才作曲家の残した音楽が、いかに精神に傷を負った人々の心を癒すかというテーマ。

以前からモーツァルトの音楽が精神に良い、脳に良い、というようなことが言われてたけど、この本ではショスタコーヴィチのような暗くて重くて諧謔が盛り込まれた悲劇的な音楽のほうが音楽療法の現場では効果がある?!という本。

著者は番組制作のために以前、交響曲第7番のレニングラード初演メンバーの生き残りのクラリネット奏者に話を聴いたり、交響曲第5番の初演の現場にいた人にも話を聴いてる。それ、すごい。

ソロモン・ヴォルコフの「証言」(1979)にも触れている。本当にショスタコーヴィチがこんなこと言ったのか?今でも真義が定かでない本だが、ショスタコーヴィチという人は周囲の友人知人が、自分への当てつけのようにNKVDに連行され処刑され、人々が口をつぐむという、これ以上ない恐ろしい締め付け方をされた人。ショスタコーヴィチの生前の写真はどれも表情が固い。

スターリンを心の底から憎んでいたに違いないが、自分が殺されないためにはそのことを一切表面に出せない。1953年のスターリンの死後も共産党員になることをずっと拒んでた。
自然と自身を韜晦し仮面をかぶる。その発言はときに信条と正反対。今もほんとうの考えを知ることは難しい。

著者は交響曲第4番、第8番、第10番。弦楽四重奏曲第5番。オペラ「ムツェンスク郡のマクベス夫人」などにも言及。
第8交響曲は初演当時の当局と批評家を満足させなかった。第5交響曲で輝かしい復権を果たした作曲家の評価が再び下り坂へ転じる。酷評を書いてしまった作曲家ウラジミール・ザカロフ(誰?)は今日まで恥をさらしてる。

自分、交響曲はほとんどぜんぶ飽きる程聴いたけど、弦楽四重奏曲は番号を言われただけですぐに想い出せるほど聴きこんでない。第8番が演奏したことない団体を探すことのほうが難しいほど世界に浸透してたとは知らなかった。
自分は弦楽四重奏曲の14番、15番は今もほとんど聴かない。タナトスに充ち過ぎてる。聴き通すには聴く側に忍耐が必要。あと、「ミケランジェロの詩による組曲」はまだぜんぜん聴いたことない。今はネット環境さえあればどこでも聴ける。今後の課題。

そろそろ「証言」を読もうと思うのだが、古書店を探しても見つけたことがない。たまには図書館でも利用しようかと思う。

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