2024年3月20日水曜日

武田英子「地図にない島へ」(1990)

武田英子「地図にない島へ」(1990 農文協)を読む。
もらってきたので読む。小学校5・6年生向けの推薦図書だと書いてある。
たぶん、同作者による「地図から消された島 : 大久野島毒ガス工場」(1987 ドメス出版)の児童向けリライト版?
武田英子(1930-2006)は東京中野出身の児童文学作家。なんと巻末に調布市の団地の現住所が書いてある。

昭和62年の夏休み、広島県三原市の小学生ミキちゃんはずっと楽しみにしていた大久野島への家族旅行が父(新聞記者)と母(介護ヘルパー)の急な仕事でキャンセルにあい不満。
だが、さなえおばあちゃん(なんと57歳、今はこの年代をおばあさん呼ばわりしたら問題になるかもしれない)が呉線で忠海へ行き、フェリーで大久野島へ海水浴に連れて行ってくれた。

そしてさかえおばあちゃんの回想が始まる。戦争末期あの島へ、毒ガス製造のために学童が動員され、危険な物質を扱ったり運んだり、土塁をつくらされたり、将校にどなられたり、ガスや有毒物質が漏れだしたことで死んだり後遺症に苦しめられたりした人々のこと。そして島のうさぎたちのこと。

戦争はぜったいにいけないことだと誰もがわかってる今現代の価値観と常識で作られたドラマと違い、この時代は子どもから老人まで、国が戦争に勝つためにがんばる!という価値観が隅々まで浸透。その考えに何も疑いを持たない。

当時の常識的な子どもの正直な声。厳しくて怖い中尉さんに怒られるの嫌だなあとか、なんで日本もアメリカを空襲して仕返ししないの?とか、自分たちががんばって作った風船爆弾の戦果として数名のアメリカ人が死んだと聞かされても「わりに合わない」と思ったり、天皇陛下のラジオ放送の意味がまったくわからなかったり。子どもの率直な気持ちと感想。

そして広島の街の方向で謎の閃光。もうすぐ子どもが生まれるはずだった姉、などの親類家族、知人も巻き込まれる。
子どもが読むにはつらく悲しい現実。

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