宮部みゆき「蒲生邸事件」を2017年文春文庫新装版上下巻で読む。
自分、今作が人生2冊目の宮部みゆき。平成日本を代表する人気作家だったのにほとんど読んだことがなかった。
この本は1996年10月に毎日新聞社から単行本として発表。1999年に光文社ノベルス版、2000年に文春文庫化という変遷。
高崎の小さな運送会社の次男の孝史くんは浪人生。1年前も父の伝手で1週間ほど宿泊した東京平河町の古ホテルにまたも宿泊。
この本はバブル崩壊以降に書かれたものだが、6大学10学部受験して受かったならどこでもいいという浪人生は今はもう珍しいのでは?と思った。代々医者の家系で医学部以外ありえないというのでないかぎり。
団塊ジュニア世代が大学(とくに私大)へ行かされたのは、何か壮大な詐欺話のような気がする。苦労して勉強して高い授業料払って行く必要も価値もなかったのでは?(宮部みゆきさんは高卒)
ホテルで異常に暗い雰囲気の中年男が目に留まる。こいつが挙動不審。突然フッと消えたりする。
このホテルは戦前まで蒲生陸軍大将のお屋敷だったという。古い肖像写真が片隅に飾られてたりする。
そして夜、ホテル火災。もう死ぬの?というその時、謎の中年男平田が孝史を一緒にタイムトリップして助ける。しかしそこは昭和11年2月の平河町。2.26事件が目前。
平田は蒲生屋敷に住み込み奉公してるというてい。蒲生家の人々とは顔見知り。孝史は最初は住み込み部屋に匿われていたけど、やがて女中、長男、長女、当主の妻、当主の弟、かかりつけ医師の知ることとなる。平田の甥で工員というていで。
2.26事件の日、当主蒲生憲之大将(予備役)が書斎で拳銃自殺。だが、長男貴之(東京帝大卒)の挙動がおかしい。遺体の傍に拳銃が見当たらないなど不審な点だらけなのに、抽斗や書類を探しまわってる。現場保存しようとしない。
身分の差というものが顕著でない現代からやってきた孝史は、使用人の甥という立場なのに、やたらと事件に介入。え?!って思うに違いないのだが、貴之も葛城医師も孝史のペースに合わせてる。しかし前時代の人々なので口ぶりがやがて「お前」になる。
この本はまるでジュニア向けか?という語り口。二・二六事件についても、昭和初期の風俗についても、やさしく解説つき。18歳主人公主観。難しい大人の表現が皆無。
そして下巻へ。上巻がタイムトリップラノベのようだったのに対し、下巻は何やらクリスティのお屋敷ミステリーの雰囲気へ。
下巻の真ん中あたりまでで失望。日本映画やドラマでよくある戦争歴史ファンタジー人間ドラマ。終盤はささっと流して読んだ。
「火車」は硬派な社会派ミステリーで満足度が高かったのだが、こちらはかなり大衆娯楽読み物感が強かった。
巻末で宮部氏が参照した図書として松本清張「昭和史発掘」(文春文庫)と高橋正衛「二・二六事件 昭和維新の思想と行動」(中公新書)が挙げられている。
あ、それ読んだやつだ。自分もほぼこの2冊から二・二六事件知識を得た。
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