鈴木輝一郎「国書偽造」という本がそこにあったので読む。1993年に五月出版芸術社より出版された後の1996年に新潮文庫化。この作家の本を初めて読む。
将軍家光の時代に朝鮮外交を担当していた対馬藩で起こった国書偽造事件とその告発に伴う騒動「柳川一件」に基づいた歴史小説。自分はまったく知らなかった日本史におけるスキャンダル事件。
対馬藩の対朝鮮外交を一手に握る家老・柳川調興(しげおき)は小さな島で終わるような器じゃない…と思ってる。野心的で、どこでもやっていける才覚もある。
主君の宗義成は暗愚であがり症で吃音?秀吉の島津征伐のころから戦場を駆け回って対馬島を守り抜いた先代の宗義智(よしとし)のような君主としての器を持ち合わせていない。
家臣たちも祖父の築いた地位に胡坐をかき朝鮮語や漢語を学ぶでもなく、ムダに禄を食む使えないやつら。
朝鮮国使が将軍家光との接見で帯刀を許すか許さないかでもめる。徳川としたら朝貢のつもりだが、朝鮮国としては下賜品を届けに来たつもり。それに、国としてのお付き合いを再開したいのなら、秀吉の文禄慶長の役について「家康と秀忠の名前で謝罪文を出せ!」とか不可能な要求もしてくる。それは韓国政府が日本の首相が交代したらその都度謝罪を要求するのに似ている。レーダー照射問題がこじれまくったのに似ている。
何もできない義成に代わって幕閣老中たちと意見を交換しアイデアを出して滞りなく無事に仕事をこなした。家光公からも褒められた。銀、小袖を賜る。しかし、出来過ぎた家臣の調興に藩主義成は面白くない。さらに他の家臣たちからも妬み。
義成のやりように失望した調興はついに主従関係を断つことに決めた。朝鮮国王からの国書、徳川将軍家からの国書を対馬藩が偽造していたことを公儀に訴え出ることにした。宗家の犯罪を暴いて有能さを見せつけて直参の旗本にしてもらおう!
原告・柳川調興、被告・対馬藩宗家、裁判官は松平信綱、土井利勝、柳生宗矩。その他、原告側と被告側の証人。
豊臣家も滅んで江戸幕府が安定し始め、時流に乗り遅れた者たちのドラマ。
秘めた思惑。ときにアクション、ときにハードボイルド。そして法廷ドラマ。ほんとうに国書偽造はあったのか?その責任は誰に?真相はいかに?!
これ、自分はまったく知らない事件で結末を何も知らない。読んでいて「どうなんの?」とハラハラわくわくしながらページをめくれた。
まるで毛並みだけ良い二代目社長と、先代社長を支えた有能営業部長の確執と戦い。まるで池井戸潤TBSドラマを見ているかのよう。
勝利を確信した調興だったのだが、「もやは下克上の時代ではない」と伊達政宗が立ちはだかる。土壇場で家光が老中たちの結論を差し替える。なんとビターな結末。
文書を管理するお役人は息子ともども死罪とか、江戸時代は人権意識が酷い。それはまるで森友文書改ざんで自死を選んだ末端の役人をも連想。
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