ジャレド・ダイアモンド「文明崩壊 滅亡と存続の命運を分けるもの COLLAPSE How Societies Choose to Fail or Succeed」(2005)楡井浩一訳 草思社 上下巻 を読む。
「銃・病原菌・鉄」を今年になっていまさらだが読んでみて面白かったので、同じ著者による「文明崩壊」も読んでみる。
科学者先生らしく構成と文章の運びが結論を急がず慎重。これが知性のある人の書く文章だ!と感心せずにいられない。
上巻第1章はまず著者が若いころから過ごしてきた想い出の地・モンタナ州ビタールート・ヴァレーで進行中の出来事から。
ここ読んで、アメリカで起こってることはそのまま日本でも起こってるなと感じた。都会者が一年の内1か月2か月だけ風景の良い空気の良い田舎で暮らすことで起こる様々な摩擦と軋轢。
第2章はイースター島。この絶海の孤島は18世紀初頭にヨーロッパ人が発見し上陸する以前にはポリネシア人が高度な文明を築いていたのだが、そのちょっと前にすでに黄昏を迎え、島民たちは惨めな暮らしをしていた。あの有名なモアイ像は作りかけのまま放置されたり破壊されたり。これは一体何がこの島で起こったのか?
キーワードは森林破壊と土壌侵食。後先考えずに森林を消費しつくしてしまえば暖を取ったり煮炊きする薪が得られなくなる。雨風しのぐ家が作れなくなる。漁に出るための舟も作れない。
森林がなくなれば土壌が侵食され島民人口を食べさせる食料が賄えなくなる。鳥やネズミを食べ尽くすと残された餓えた人々は人肉食へと堕ちていく…。なにそれ怖い。
第3章はピトケアン島とヘンダーソン島。ピトケアン島というとバウンティ号の叛乱で有名なのだが、ここでもやはりそれ以前にポリネシア人たちが住んで社会を作っていた。
だが、ここも交易していた最大の島・マンガレヴァ島で森林が失われ人が住めなくなり、ピトケアンとヘンダーソン島民が必要とする物資を供給できなくなり餓えが始まり社会が崩壊。
第4章はネイティブアメリカンのアナサジ族。この人々もヨーロッパ人が上陸する以前に居住地跡の遺跡を残して姿を消してしまっていた。
モリネズミの廃巣穴を調べると、かつてそこにあった植生を知ることができる。炭素年代測定など分析の結果、気候変動による干ばつがあった?
第5章はマヤ。ここも森林破壊と干ばつ、土壌が人口を支えられなくなったことで戦闘激化。
第6章はアイスランド、7章はグリーンランド。海を渡った中世ノルウェー人のグリーンランド入植から450年で最後の一人が死に絶えるまで。
グリーンランドも人や家畜を食べさせていく地力がなかった。気候が厳しく植物の育成が追いつかなかった。
本土から距離がありすぎた。入植したノルウェー人が保守的なキリスト教徒で、イヌイットと敵対し、グリーンランドで生きるための術を学んだり交流したりすることができなかった。
下巻、ニューギニア高地、ティコピア島、徳川時代の日本を森林資源管理の成功例として列記。
17世紀日本の平和は人口増。そして明暦の大火は木材需要の高まりを招く。日本も歴史上の森林資源枯渇失敗国家に転落する危機だった。しかし、徳川体制はトップダウンで森林資源をしっかり管理。植林と森林管理の技術もあった。
1994年のルワンダ大虐殺。ツチ族とフツ族の争いというだけでなく、権力者が自身の権力保持のために扇動した面と、少ない資源を奪い合う事態がアフリカ有数の高人口密度地帯での殺し合いへ発展。恐ろしい。日本もこれ以上貧しくなるとそれに近いことが起こるかもしれない。
カリブ海イスパニョーラ島を二分するハイチとドミニカ共和国の森林環境の格差のコントラストについて自分はなんとなく知ってはいた。両国とも腐敗国家だったのだがドミニカが上手く森林を維持できたのは独裁者の方針のせい。別に高尚な動機があったわけでもなかった…って初めて知った。
そして大国中国とオーストラリアの現状。そして環境保護と、利益を追い求める企業のせめぎ合い。人類の英知と希望。
この本を読んだ人々はたぶんもれなくサステナブルとSDGsを意識し始める。2015年の国連採択へと動き出したきっかけの啓蒙書のひとつだったのかもしれない。
あとやっぱりこのん本でショッキングだったのがイースター島とグリーンランドのノルウェー人が滅んでいった過程。怖い。
気候変動、食料自給率の低下、エネルギー価格高騰、労働環境の悪化、教育の質の低下、自然災害、原発事故、戦争、周辺国の環境悪化かなにかから大きなインパクトとダメージを受けたとき、世界が助け合う余裕が失われたとき、孤立したとき、複合的トリガーによって日本でも大量の餓死者が出る事態も頭をよぎる。
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