2023年9月20日水曜日

ジャレド・ダイアモンド「銃・病原菌・鉄」(2000)

ジャレド・ダイアモンド「銃・病原菌・鉄」倉骨彰訳 草思社(2000)上下巻を読む。2000年代前半のベストセラー。ずっと視界に斜めから入ってて、いつか読まなきゃなと感じてた。やっとGW前に読み通した。

著者は医師でカリフォルニア大学ロサンゼルス校医学部教授。生理学、進化生物学、生物地理学の専門家。ニューギニアで鳥類生態学も研究。
GUNS, GERTMS, AND STEEL The Fates of Human Societies by Jared Diamond 1997
1万3000年前に5つの大陸に到達した人類は狩猟採取で生きていた。みんな同じような生活してた。だが、いつからどこでどうしてこんなに格差が広がった?

なぜスペインのピサロ部隊は圧倒的多数だったインカ帝国を滅ぼしたのか?なぜ逆にインカ帝国の側が海を渡ってスペインを滅ぼせなかったのか?
なぜ新大陸の先住民の側が逆にヨーロッパに渡って征服しなかったのか?
なぜアフリカの黒人たちは鉄器を持ってシマウマに乗ってヨーロッパに攻め込まなかったのか?

そんな疑問の数々に著者は結論を急がず慎重な歩みで優しく語りかける。この本は表紙を見ると何やら難しそうに感じるかもしれないが、高校生でも十分に読めるし内容を理解できる。
予想以上に平易でわかりやすく、かつ、内容が知的。高校世界史ではほとんど習わなかった範囲。読み始めてすぐにことの重要性を感じる内容。とても面白いし満足度が高い。ページをぐんぐんめくれる。

上巻はほぼ人類がどうやって農耕に適切な食料を選択し広まっていったかを詳細に解説。これが発表から四半世紀経っているので、すでに常識化してたり、どこかで見聞きしたり知ってることも多い。だがそれでも目からうろこのことばかり。

ヨーロッパ人の持ち込んだ病原菌によって、アメリカ先住民が壊滅的な被害を受けたことは知っていた。だが、なぜその逆の事態、先住民の持っていた病原菌でヨーロッパ人は倒されなかったんだろう?

自分、この本のタイトルの中に「病原菌」とあるのがよくイメージできなかった。大型の草食性哺乳類の種類が多かったユーラシアでいちはやく馬、牛、羊、山羊、豚、犬を家畜として飼うことが可能になったわけだが、そのことによってユーラシア大陸の人類は動物の持っていた突然変異した病原菌に感染し免疫を持つことができていた。

長い年月を経てヨーロッパ人はすでに病原菌の免疫を持っていた。ヨーロッパ人は銃と鉄、馬、そして自らは感染しない病原菌という細菌兵器で、新大陸先住民を倒していった。まさに濡れ手に粟。そういうことだったのか!

人類が家畜として飼いならし容易に繁殖させるようにできた動物は意外なほど数が少ないことを知った。
家畜とするには何でも食べてくれる雑食性、群れをつくる従順性、リーダーに従う必要がある。
気性の粗さや攻撃性、不規則性、なわばり意識、デリケートで複雑な求愛活動を伴う困難な繁殖活動があるものは、人間が家畜にするハードルがかなり高い。近世以降に家畜化に挑戦して成功した事例はない。人類は数千年かけて、わずかな野生動物を家畜にできたにすぎない。

あと、農耕が広まったのには、その大陸が南北ではなく東西に広がっていたことが重要という事実も目からうろこだった。植物は自生してた緯度が変わると気温や日照時間が変わって育てられない。東西方向と南北方向では農耕とその技術が伝わっていく時間に大きな差がある。
結果、北米大陸で先住民が農耕を始めた時期が遅れた。新たに外部からやって来たヨーロッパ人たちに対抗できるまで文明を発展できなかった。

下巻は文字の誕生と伝播、小規模血縁集団が集権国家になっていく過程。なんか急に難しい。
そしてニューギニアとオーストラリアのケース、中国のケース。そしてアフリカ。
各大陸での格差は民族の優劣ではなく、住んでた大陸の条件がすべてだった!という本。

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