2023年9月7日木曜日

鷺沢萌「失恋」(2000)

鷺沢萌「失恋」(2000)を読む。これは実業之日本社より刊行された後、2004年3月に新潮文庫化。文庫初版で読む。「失恋」をテーマにした4本の短編を収録。

鷺沢萌(1968-2004)を初めて読む。どういうわけか自分はてっきりこの作家を在日二世三世作家と勘違いしてた。父方の祖母が韓国人だったという4分の1韓国の血が入ってる作家。あと、映画監督の利重剛と結婚してた(1990-1991)と初めて知った。
著者が文庫あとがきを1月に書いている。鷺沢萌は2004年4月に自死してる。享年35。この文庫本が出たときは存命中だった。

「欲望」
96ページもあるので中編と言えるかもしれない。映画ライターの悠介、証券会社に就職した水島、水島と結婚した黎子。90年代、バブル崩壊前後に20代前半だった若者たち。日本経済の荒波に翻弄。
とても頭に入ってきやすい。わかりやすい文体。わりと味わい深い。ヒロイン黎子は鷺沢本人かもしれない。

「安い涙」
両親が事故で亡くなり17で上京し働きづめで自分の店が持ててマンションをローンで買って、という37歳女。お得意と食事をするためにタクシーに乗ったら運転手が道をよく知らなくて…。ショートムービーのような短編。

「記憶」
貧乏な医学部生の便利な女。パソコンのセットアップ、クルマでの送迎、オーラルセッ〇ス、…。しかも他にも女。親が大学の近くにマンションを買ってくれるぐらい裕福な家庭で育った私だから、彼を医者にするため何かしてやりたい…。利用される女。

「遅刻」
カオルイラ?自分はこのシングルモルトウィスキーの名前をまったくこの短編を読むまで知らなかった。

驚いた。4作すべてありきたりな「失恋」を正面から描いてない。
文庫巻末解説を小池真理子氏が書いている。一番好きな作品は「記憶」だそうだ。「文学的リアリティがある」とのこと。

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