2023年8月6日日曜日

夏目漱石「文鳥・夢十夜」

夏目漱石「文鳥・夢十夜」を平成19年新潮文庫版で読む。7本から成る短編集。順番に読んでいく。

文鳥(大阪朝日新聞に明治41年6月13日~21日に掲載が初出)
これは中1ぐらいのときに読んだことがあるけどまるで内容を覚えていない。大人になって初めて読む。

粟を嘴でつついてる表現
菫程な小さい人が、黄金の槌で瑪瑙の碁石でもつづけ様に敲いている様な気がする。
美しきものの死という哀切を描く。めんどくさがりな漱石先生に文鳥を飼うことを勧めた三重吉もだが、生き物を飼う責任と覚悟がない忘れっぽい漱石先生も酷い。女中が気の毒。

夢十夜(朝日新聞 明治41年7月25日~8月5日)
これは高校生のとき読んだことがある。やっぱりまるで内容を覚えていない。漱石の心の恐怖と暗い闇。15、16のころよりも映像としてイメージできている。その意味を考えることはあまり有益ではない。檳榔樹の杖で叩かれ崖を落ちていく豚…というシュールな映像の面白さを味わうしかない。

永日小品(朝日新聞 明治42年1月1日~3月12日)
明治の日常風景スケッチ。正月風景、ロンドン留学時代の回想、借金を申し込みに来る青年など多岐にわたる話題。

台湾に行った後に満鉄総裁になった中村という人物のことが書かれている。調べてみたらこの人は中村是公という震災後の東京市長だ。漱石と一高時代からの親友らしい。満鉄総裁時代にはハルピンで伊藤博文暗殺事件現場に居合わせ銃弾がかすめたが無事だったそうだ。「永日小品」連載の7か月後のことだ。

思い出す事など(朝日新聞 明治43年10月29日~44年4月13日)
修善寺に転地療法に出た漱石せんせい。大量吐血し弱っていく病床での思い出す事あれやこれや。40代で死ぬかも…と弱気の暗く神経質なインテリ作家の闘病。読んでいてつらい。
まあこれを書いてるということはなんとか退院できたということだが、胃潰瘍は漱石せんせいの宿痾となってしまった。漢詩と俳句の権威漱石。

ケーベル先生(朝日新聞 明治44年7月16日、17日)
尊敬すべき老教授について書いた随筆エッセイ。

変な音(朝日新聞 明治44年7月19日、20日)
これも病室での人々の風景。

手紙(東京朝日新聞 明治44年7月25日~31日)
昔の人は赤の他人の縁談まで面倒見ないといけないとか、自分から気苦労を背負いにいってる…。

今回、「文鳥」と「夢十夜」を読み返す目的でこの本を手に取ったのだが、一番印象的だったのが「思い出す事など」だった。明治時代の中年男はあまり自身の健康に気を使わなかったのか?漱石せんせいが「明暗」書いてるときに胃潰瘍で苦しんでたことは知ってたのだが、これほど長い間病気に苦しんでたことを知らなかった。

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