2023年8月8日火曜日

平石貴樹「潮首岬に郭公の鳴く」(2019)

平石貴樹「潮首岬に郭公の鳴く」(2019 光文社)を読む。オビに「2020年版このミステリーがすごい!10位」と書かれてる。それなりに売れた本なのかもしれない。
今までまったく読んだことのない名前も知らない作家だけど読んでみる。1948年生まれで東京大学文学部教授で名誉教授だという他にない経歴。ある意味、漱石せんせい。

函館近郊で病院を経営する有名資産家の岩倉家の三姉妹の三女・咲良(16歳)が、高校のある函館から帰りのバスに乗ったのに自宅最寄りバス停で降りてこない。
どうやら一つ先のバス停で降りたらしいのだがそのまま行方不明。潮首岬の岩場で血のついた遺留品が見つかる。そして凶器?らしき血のついた鷹のブロンズ置物も発見。
後日、海上で遺体発見。死因は絞殺。

岩倉家当主で岩倉商事会長の松雄(78)によれば、岩倉を恨む工務店経営の小窪が芭蕉の俳句に見立てて殺した?岩倉親子にはアリバイがある。
そして三姉妹の次女・柑菜(19)も自宅ガレージで絞殺された死体となって発見。頭にはセイコーマートのレジ袋がかぶせてある。これもやっぱり芭蕉の句の見立て殺人?

東京出身東京育ちだが函館の40代警部補が主に捜査してるのだが、この人が容疑者たちに対して腰が低い。威圧的高圧的じゃない。幼い娘は大谷翔平がいる北海道ニッポンハムファイターズファン。
ちなみにこの小説は登場人物たちがみんな北海道方言イントネーションで話してる。北海道人にとってはリアルかもしれないが、そういうの、活字で読むとわかりづらくなる。

派手なことが何も起こらない社会派刑事ドラマのよう。終盤までずっと膨大な関係者の人間模様と情報を読ませられる。無駄に矢鱈に容疑者の範囲を広げていてうんざり。
ミステリーを読んでるときぐらいは現実を忘れたいのだが、リアルに北海道警が担当してる殺人事件の捜査を読まされているよう。正直、かなり退屈でつらい…。

そして三姉妹の長女、さらに松雄も殺害。これで一家4人連続殺人事件が完成。すべての現場に芭蕉の短冊。
やっと面白くなってくれるのか?と期待したものの、やはり聴きこみと事情聴取。本筋と関係ある?という情報ばかり。

ページも残り少なくなったところで、岩倉家の養子の健二くん(16)の友人でフランス人少年ジャンピエールくんがしれっと闖入。この少年が実質このミステリーの名探偵に相当。事件の真相を見抜く。

人によってはこの本を褒めてる。しかし自分は、その真相にはやっぱり興味をだんだん失って行った。
動機と真相にリアリティを感じない。自分、横溝正史のいくつかの作品は好きだけど、横溝を現代にリライトしてみた的作品にはあまり感心できない。あれは昭和20年代でのみ成立する話。
ああ、東大文学部教授が書く本格推理小説とはかくも面白みのないものなのか。
この単行本の表紙イラストと内容があまり合ってない。

0 件のコメント:

コメントを投稿