2023年8月22日火曜日

セルゲイ・パラジャーノフ「スラム砦の伝説」(1984)

セルゲイ・パラジャーノフ監督の「スラム砦の伝説」を見る。1984年制作のソ連・グルジア映画。たぶん全編グルジア語。たぶんグルジア人がトルコ人と戦った記憶の歴史絵巻。
「ざくろの色」後の逮捕投獄、強制労働を経験したパラジャーノフの16年ぶりの監督作。共同監督としてダビッド・アバシーゼ。

皇帝は民との平等を宣言し、丘に祖国を護る砦建設を宣下。
ちょ、要塞を作るのに大量の生卵を土と混ぜ合わせこねるところから始まるの?!
だが、トビリシ南門のスラム砦は攻撃による破壊と建設を繰り返す。
解放奴隷ドゥルミシハンとその恋人ヴァルド。
ヴァルド役の女優を自分はてっきり「ざくろの色」にも出てたソフィコ・チアウレリさんだと思った。しかしこの女優はLeila Alibegashvilli という女優らしい。
ソフィコ・チアウレリさんはヴァルドが年をとってからの出演。終盤に女優二人による女占い師二人羽織的なシーンがある。

女は男が戻ってこないことを知っている。女は占い師。ドゥルミシハンの妻に男児が生まれると予言。
解放されても貧しいドゥルミシハンは絶望の哀しみ。トルコ人風だけど実はグルジア人だという隊商ザリカシビリと出会う。こいつの告白を聴かされる。

ザリカシビリの父は馬車に弾かれて死んでしまい、自分と母は奴隷として主人から酷い虐待。母も死亡し天涯孤独。恥辱と怒り。主人を殺して逃亡。信仰も棄てた…という波乱人生。

しかし故郷が忘れられない。ドゥルミシハンはザリカシビリから美しいローブと馬メルツハラ(ツバメ)を贈られる。なぜこんなにも親切なのか?それがイスラムの教えなのか。そしてドゥルミシハンは港町グランシャロへ。
船に荷を積み込むシーンがまるで舞台装置のように描かれる。
婚礼の風景が日本人には馴染みがなさすぎて謎すぎる。新婦がなぜにそんなに陽気に笑ってる?羊の犠牲。血痕のシミ跡のついたシーツ。
そしてドゥルミシハンの息子ズラブが生まれる。

ヴァルドはずっとドゥルミシハンを探して訪ね歩いていた。苦しみながら祈ってた。老婆の占い師を訪れ占ってもらう。ドゥルミシハンがすでに結婚しているイメージを見て悲しみ。

ヴァルドはまだ若く美しい。老婆が止めるのも聞かず占い師になる決意。
老婆占い師はヴァルドに秘儀を授けると「苦しい!心臓が痛い!寒い!」と呻きながら死んでしまう…。

ズラブは父とヴァルドの関係を知らず、占い師ヴァルドに砦を建てるためのアドバイスを求める。
そして背が高く青い眼でハンサムなズラブは自らの手で自身を人柱として砦に埋める…という、古代中世の伝説や民話のような物語。たぶん信仰篤い人々にとってそれは栄誉。たぶん「ミッドサマー」にも影響を与えた世界観。
これは事前に予備知識がないと寝てしまう映画。グルジア人以外は意味が解らな過ぎて呆気にとられる。1985年にモスクワで公開されたとき、観客も意味が解らなくてポカンとしたに違いない。時系列と繋がりがわかりづらい。場面と場面の間を字幕で説明。この映画を完全に理解できる日本人がいるとは思えない。いるとすればグルジアの専門家。

それぞれの場面の意味が謎。しかしそれでも映像には見入ってしまう。すべてが絵画のよう。

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