2023年7月2日日曜日

阿津川辰海「蒼海館の殺人」(2021)

阿津川辰海「蒼海館の殺人」(2021 講談社タイガ)を読む。作者は1994年生まれで東大卒らしい。館を舞台にした新本格を書くとは、綾辻行人を意識してるに違いない。

しまった。この蒼海館は「紅蓮館の殺人」に次ぐ第2弾。しかたないが「蒼海館」から読むことになってしまった。
「館」+「ディザスター」という「シャム双生児」や「屍人荘」みたいな連続殺人ミステリーじゃないかと。

主人公に相当する「私」田所信哉と、名探偵に相当する葛城輝義は名門高校に通う高校2年生だというのに、夏休みにM山で恐ろしい事件に遭遇。そして解決。
その件で学校から謹慎処分をくらう。しかし、葛城は10月2週目だというのに登校してこない。担任によれば祖父が亡くなって忌引きだという。

田所は図書委員の親友三谷と一緒に、北関東にあるというY村の山の中にある、葛城の先代の惚太郎が建てた洋館蒼海館へ電車とバスで向かう。
好奇心ついでで、学校のほうから来たというていで、四十九日で親族のみという蒼海館に強引かつしれっとイン。

葛城は名門一族。父は政治家、母は大学教授。叔母の旦那は弁護士。輝義の兄正はキャリア警察官(?)、姉ミチルはトップモデル。祖母が認知症らしい。
西洋館に名家。読者もそんな異世界へ没入していく。
そして、大型台風。Y村は河川が氾濫し水没の危機。川を見に行った家庭教師が戻らない。水が迫ってくる中で犯人を捜さないといけない。ザ・クローズドサークルもの。

やがて、正が猟銃で頭が飛び散った状態で死亡してるのが発見。病死と思われていた惚太郎も毒殺?!この家族には「蜘蛛」と呼ばれる悪意を持った誰かがいる?

ミチルと交際していた過去を持つ坂口が強引に屋敷に来ていたのだが、葛城家の情報を握っている?件で何者からか襲撃されたことがある?
しかし、葛城家の面々から犯人と疑われ、屋敷を去ろうと車にエンジンを入れたとたんに爆発し火柱。黒焦げ死体。

葛城輝義くんも田所くんも高校生だというのに、政治家父や弁護士叔父よりも頭脳の回転が速く、医薬品の行政と法律にも詳しいとか、まるでエラリー・クイーンのようにガチガチロジックで状況を的確に読み解く。ちょっとあり得ない。優秀過ぎ。

遺された証拠が後期クイーン問題というやつ。3人分のティーセットとか、真犯人が誤誘導を狙って置いていったものなのかそうでないのか?家族たちが相互にかばい合って嘘を言っていないか?長大なうえにややこしい。複雑に入り組みすぎ。
兄を殺され氾濫した水が迫ってる状況で高校生葛城くんの頭脳がすさまじい。すごすぎてリアリティがない。

高校生たちが主人公ということで、何か軽い読み物としてこいつを選んだのだが、かなりヘビーでハードなエラリー・クイーン型の本格ミステリーだった。探偵も犯人もエラリーが複数いるかのような、尋常じゃない先回り緻密論理。
終盤はポアロのように順番に呼び出して話を聴き、意外なことを明かし、そして全員の前で真犯人を指摘し直接対決。

ボリュームに見合った豊富なアイデアが詰まってる。構成が緻密。キャラの描き分けも巧み。かなりの野心作。
生真面目に本気の力作すぎる。631ページもある。正直、ついていけない。東大ミステリ研の作者が仲間たちに読ませるような大作。よほどミステリーを愛好し読み漁ってる読者向けだと感じた。片手間に余暇を楽しむために読まれることを想定していないように感じた。読む人を選ぶと思った。

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