2006年のドイツ映画「善き人のためのソナタ」(独題: Das Leben der Anderen「他人の生活」)を字幕版で見る。
第79回アカデミー賞外国語映画賞受賞作。日本ではアルバトロス・フィルムの配給で2007年2月に公開。
監督・脚本はフロリアン・ヘンケル・フォン・ドナースマルク。出演はウルリッヒ・ミューエ、マルティナ・ゲデック、セバスチャン・コッホなど。
東ドイツの市民監視秘密警察シュタージのエージェント中年男を主人公にしたドラマ。
以前からいつか見ようと思っていた。やっと見た。東ドイツはもう遠い昔のことで今の日本人の多くにとって馴染み薄。
1984年の東ベルリンが舞台。市民は国家保安省(シュタージ)と10万人の協力者と20万人の密告者によって監視されている。
近所の友人が西側に亡命したというだけで逮捕尋問される男。ベテラン局員ヴィースラー大尉(ウルリッヒ・ミューエ)は党と国家の忠実な犬。頭髪が薄い。
国家と社会主義の敵を眠らせずひたすら長時間取り調べ。人道的に酷い。こんな国が90年代まであった。ドイツ人の半分は元こんな人。
ヴィースラー大尉は反体制の疑いのある劇作家ドライマン(セバスチャン・コッホ)とその同棲相手の舞台女優クリスタ(マルティナ・ゲデック)を監視。
ドライマンの留守中にヴィースラ―と工作員たちが侵入。アパートには盗聴器が仕掛けらる。この盗聴器がささやく声も拾う。情事の音も。
一部始終を目撃していた向かいの部屋の住民を脅す。「誰かに話したら娘さんは退学になりますよ」
思想と信条を探られる。みんな党と国家に忠実であるように装う茶番。なんと無意味で無駄なことにエネルギーを費やした40年か。こんなくだらん仕事にしゃかりきになる奴がいなければいいのに。(北朝鮮や中国は今もこんな国)
ヴィースラ―は諜報活動も教えてる。上司のグルビッツ中佐はクリスタとハムプフ大臣が親しい関係だと捜査できないが、その情報はいつか政敵に取り入って出世するのに使える…とか言う俗物。なのに中佐は学生がホーネッカー議長を揶揄するようなジョークを聞き逃さない。
ドライマンはクリスタと大臣の関係を知って苦悩。クリスタも苦悩のあまり薬物。
ヴィースラ―は他人の情事も監視してるのに自室に娼婦(デブ)を引き入れて性欲は満たしてる。ドライマンの部屋から本を失敬してるとかいろいろ醜い。
彼ら芸術家たちの会話に耳を澄ませているうちに、堅物ヴィースラーは次第に変化。盗聴が楽しみになってるやん。
自分の仕事は惨め。そして、ドライマンが弾くピアノソナタを耳にした瞬間、心で何かが変化。そこ、邦題付けた人にとって重要な箇所らしいのだがあんまり劇的に描かない。
老演出家イェルスカ演出家の自死をきっかけに、ドライマンは演劇仲間たちと西側での公演にパウルを車のトランクに隠して連れ出す計画。ヴィースラ―は盗聴してるのでお見通し。だがあえて見逃す。
芸術家も党国家によって自由な創作が不可能。それでも劇作家として人間を見つめ続ける。
役人は統計の数字が好きだが自殺者は数えないという。それがシュピーゲル誌の記事になり、東ドイツのお役人激怒。「誰が書いた?!」ドライマンら演劇人たちは命の危機。
これが惨めな監視社会だ!という映画。シュタージと自由を求める政治犯のせめぎ合いの地味映画。
しかし、ナチ時代の拷問の手粗さや、スターリン時代ソ連の窒息するような空気よりはマシな気がする。
京都府警や神奈川県警みたいにくだらないことにシャカリキに精を出す官憲ばかり東ドイツにいたわけでない。そこは人間に希望が持てる。
クリスタは道路に飛び出し車にはねられる。なぜすぐに救急搬送しない?
証拠を隠滅したヴィースラ―は「20年間地下室で封書の開封作業」を命じられる。しかし、東ドイツはそんなに長く続かないw
なぜにドライマンは壁崩壊後になれなれしく話しかけて来たその大臣を殴り倒さない?
ドライマンは後年になってHGWが記したドライマン監視記録を資料請求。読んだドライマン絶句。報告書を記した「HGW」って誰だ?!
最後のファイルに赤いインク…。ああ、そういうことだったのか!
劇的なのは内面のみ。最後までアッサリ地味。でもそこが良い。
東ドイツ時代の車両が見てて面白かった。東ドイツの役人や官憲は後にどうなった?
0 件のコメント:
コメントを投稿