沢尻エリカ「シュガー＆スパイス 風味絶佳」（2006）

「シュガー＆スパイス 風味絶佳」（2006）を見る。山田詠美「風味絶佳」収録の短編を原作とする映画。山田詠美が一時期過ごした米軍基地の街・福生がこの映画の舞台。

監督は中江功。脚本は水橋文美江。大多亮の企画プロデュースで亀山千広の制作という、フジテレビの名物ドラマ製作者ががっつり手を組んだ企画。

カンヌ映画祭史上最年少で最優秀主演男優に輝くなど話題の十代俳優だった柳楽優弥と、スターダストの人気急上昇中新人若手女優沢尻エリカを次世代のスターにするべく、SDPとフジテレビが制作した映画。音楽は吉俣良。

これ、2007年にDVDが出たときに2回ほど見たのだが、今日まで存在をまったく忘れていた映画だった。2月にBOで250円で売られていたので買って帰った。自分の記憶ではここ数年はWOWOWでも放送されていないし、配信もしていない。250円なら迷う必要はない。「ただ、君を愛してる」と一緒にレジへ。

（DVDを久しぶりに見たのだが、もうSD画質では画質に満足できなくなってる。）

17歳の高校生志郎（柳楽優弥）は友人2人（木村了と濱田岳）と福生の街で、高校生らしいバカな日々。冒頭からテンポよく勢いで見せる。

濱田の女役で岩佐真悠子がセクシー振りまいてる。（このグラビアアイドル女優はゼロ年代にドラマに映画に活躍したのだが、2020年に惜しまれつつ芸能界を引退。）

志郎くんは高校卒業後は大学へ行くよりも、車に興味あるからとりあえずガソリンスタンドで働こうか…と考える。そのことで父（光石研）からやんやの叱責。しかし、グランマ夏木マリは味方。両親を説得。

志郎が働くガソリンスタンドは風景的に福生じゃない。まるで工業団地か新規に造成した住宅地。遠くに穀物倉庫が見える。たぶん埼玉か茨城、千葉の田舎に作られたセットでは？（調べてみたら木更津らしい）

ガソリンスタンの社員たちに大泉洋と佐藤二朗と板倉俊之のおじさんたちがいる。そのキャストを完全に忘れていた。佐藤二朗が長髪でギリ若者感を出している。

このへんの脇役キャラたちの造形に、長年ヒット作を生み出してきたフジテレビのドラマ作りノウハウが活かされてるっぽい。

派手な成金風社長が金田明夫さんだってスタッフロールを見るまで気づかなかった。

社長が新しいバイトとして乃里子（沢尻エリカ）を連れてくる。これがもう最初の笑顔から恋してしまうやろという天使。完全に恋。

このカワイ子ちゃんが女子大生でお嬢様で住む世界が違う。なんでもいいやとたまたま福生で選んだバイト。成り行きでたどり着いた流れ者女との一時的な恋になることは、もう最初から目に見えている。

しかも、女には慶大医学部の元彼(高岡蒼甫)がいた。部屋の鍵の件で話をつけるために、乃里子は志郎を連れて元カレがいる図書館へ。

乃里子と高スペックだが陰気そうな元カレとのやりとりなど見たくない志郎くん。乃里子を置いて先に買える。そのことでどしゃ降りの雨の下、乃里子に強く叱責される。志郎は気持ちをぶつける。

ふたりはいい感じに。横浜デート。乃里子「19になったら一緒に棲もう」という約束。

恋する志郎くんは好きな女の子に優しくする以外のことを知らない。それが元カレと別れて人から優しくされることを求めていた女の心に刺さった。

元カレが乃里子を諦めていない。志郎のバイト先を訪れ、佐藤二朗が懸念を示すのに大泉洋が「友だちなんだろ？」ということで志郎の住所（米軍ハウスの立ち並ぶジョンソンタウンがロケ地）を教えてしまう。それ、まだ個人情報保護にうるさくなかった時代？

志郎の帰りを一人で待つ乃里子の志郎の家に元カレ。これはもうストーカー。（志郎の失恋に大泉洋の責任重大。）

乃里子の気持ちは揺れる。志郎ではやっぱり子どもっぽくて物足りない。刺激が足りない…。

この女はずっと冴えない表情。心の迷い。葛藤。良心の呵責。

乃里子は大学の試験を理由にバイトを休み、志郎の元を去る。志郎は「19になったら一緒に棲む」という約束を信じて待ち続ける純情少年。

結果、これがもう初めて恋をした18歳の少年には酷すぎる失恋。まるで金色夜叉。

志郎くんの全力自転車疾走と米軍基地フェンスでの慟哭と嗚咽がかなりショッキング。視聴者にも失恋の傷を強く感じさせる。傷口に塩を塗り込んでくるかのよう。

この映画、もうひとりの主役が夏木マリさん。孫の志郎に恋のアドバイスと励まし。乃里子とは女同士の話。

こんなかっこいい婆さんなかなかいない。長髪だし金髪パーマだし、タバコをすぱすぱ吸ってるし、若い燕みたいな男（チェン・ボーリン、ゼロ年代なかごろによく日本映画に出てた台湾の俳優）もいるし、オープンカー運転するし、というバーのママ。

この映画、なんとオアシスが主題歌「LYLA」を提供。そこもフジテレビの力。

この曲をバックに志郎と乃里子の楽しそうなラブラブ同棲シーンが恥ずかしくて見てらんない。

実は自分は福生という街をよ～く知っている。学生時代からの友人がずっと住んでる街だから。なので映画のロケ場所がよくわかる。

福生はこの20年、だいぶ米軍住宅が再開発などでなくなってしまった。普通の街になりつつある。

だが、この映画に何度も登場する八高線・東福生駅周辺の田舎駅っぷりは大して変わらない。柳楽くんと沢尻エリカのメインのビジュアルが撮影されたとは想像しにくい場所だ。

柳楽優弥はカンヌ以後に色々と苦しんだものの、今では映画にドラマに欠かせない俳優に成長。

その一方、沢尻エリカはこの映画の1年後に「別に」発言で大バッシング。結婚と離婚で世間を騒がし人気も急落。2019年に薬物事件で逮捕され、事実上の引退状態。

十代からカワイイともてはやされて育ったのなら、誰だって一度や二度の過ちを犯してしまうこともある。そろそろ許してやれって思わないでもない。30代後半から40代への女優として女ざかりの時期に差し掛かってるだけに何もしていないのはもったいない。