2023年7月10日月曜日

遠藤周作「深い河 ディープ・リバー」(1993)

遠藤周作「深い河 ディープ・リバー」(1993)を講談社文庫(1997年8刷)で読む。これは今もわりと多くの人に読まれているようだ。1994年に毎日芸術賞を受賞したと書かれてる。

磯部という老人の妻がとつぜん癌で余命宣告を受けるというところからスタート。妻が亡くなるというときに転生して「世界のどこかで生まれ変わるから探して」と言い残す。
てっきりこの磯部が主人公かと思いきや、美津子という病院ボランティアの学生時代に話が飛ぶ。

美津子はおそらく上智大学生?もう日本社会は学生運動も下火。情熱を傾けるものもなく刺激を求めて男を求める。で、堅物で生真面目で冴えない見た目の敬虔なカトリック学生大津を酒の席に誘い強引に童貞を奪う。
だがそれは遊び。棄て去り、後に見合いで建設会社役員に収まってる男と結婚。しかし、つまらない男というので離婚。

美津子は新婚旅行でリヨンの神学校に通い神父を目指す大津を訪ねる。この大津が日本人に合ったキリスト教のようなものを志向する異端傾向のために、どこかれも受け入れられず流浪する破戒坊主。やがてインド・ヴァーラーナスィで不可触民がするような、ガンジス川へ死体を運ぶようなことをするまでになる。

磯部、美津子、木口(ビルマ戦線の生存者)、沼田(童話作家)、カメラマン三條夫妻(俗悪)、江波(インド留学してるツアコン)らのインド団体旅行記。

てっきり大津と美津子の「神とは?」「キリスト教とは?」のような問答を聴かされる作品を想像してたのだが、まったく違った。意外に通俗小説。あんまり真剣な顔して読む必要がない。

作中でインディラ・ガンジー首相暗殺事件によって、ヒンディー教徒とシーク教徒の対立で街が騒然となりツアー客が出国できないかも…という場面がある。ということは1984年10月がこの作品で描かれてる。

カメラマン三條がずっと典型的意識低い系日本人観光客で、こいつはいつか何かやらかすと思ってった。最後の最後でどんでもないことをやらかして、さっと暗転。そして急な幕引き。
この展開は自分に「わたしが・棄てた・女」を想い起させた。

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