2023年6月26日月曜日

松本清張「陸行水行」(昭和39年)

松本清張「陸行水行」別冊黒い画集2(昭和39年)を文春文庫2007年新装版で読む。4本の短編を収録。すべて週刊文春(昭和38年10月21日から39年3月23日までの間)に連載されたもの。
ちなみに「黒い画集」は1958-1960が週刊朝日連載分だったので、週刊文春連載分が「別冊」という扱い。

(週刊文春1963年10月21日号~11月18日号 全5回)
山梨県塩山市から群馬県伊勢崎市まで有料高速道路を建設する計画のための用地買収。買収交渉は順調に進んだのだが、川口平六という養豚業者だけが頑として買収交渉に応じない。単価を周辺の3倍にしても応じない。
周辺の地主たちからも村人たちからも世間からも嫌われる。新聞、警察にも投書。もしかして、地面を掘り返されたくない理由があるのでは?

その真相はなんとなく予想ついた。ずる賢く戦後の混乱を生き抜いた男は予想以上に悪人だった…という話。

陸行水行(週刊文春1963年11月25日号~1964年1月6日号 全7回)
東京の大学で講師をしている「私」川田修一は古代史が専門で宇佐八幡について調べるために立ち寄った大分県安心院町の妻垣神社で、愛媛松山の役場吏員で邪馬台国研究をしている浜中浩三という人物から独自の邪馬台国の所在地の自説を教えられる。

この時に名刺交換をしたのだが、東京の偉い先生と知り合いと自分を売り込んで、西日本各地で郷土史研究家宅を訪れ、数万円の寄付金をつのっていた。その件で各地から問い合わせの手紙が来るようになった。
そして臼杵市の醤油醸造業者の妻から問い合わせの手紙。浜田と一緒に出掛けた主人が行方不明に…。

これは清張作品でたまにあるケース。たまたま偶然そこで出会ったふたりが歴史論争をする話。その後の犯罪はオマケでミステリー要素はあまりない。
しかし、それでも邪馬台国の所在に関する自説を展開してて興味深いし、ぐんぐんページをめくれる面白さがある。

寝敷き(週刊文春1964年3月30日号~4月20日号 全4回)
ペンキ職人の源次は父から看板を引き継ぐ2代目。近頃の住宅建築ブームで請負仕事を掛け持ちするほど仕事も順調。しかし、屋根から他人の家の色事を覗き見するようになり、やがて仕事先の夫人や娘と色事をするようになる。

父親から結婚を催促され結婚相手も決められあとは日取りを決めるだけなのだが、浮気相手の女が妊娠したという。男は女と湯河原温泉へ行き、睡眠薬で心中事件を起こす。自分は助かるギリギリの量を飲む。
不審に思った刑事が意外な点から男の殺意に迫ろうとしたのだが…。これは最後に多少の意外性があったけど、ほぼ好色な男の顛末を描いた読み物と言った感じ。

断線(週刊文春1964年1月13日号~3月23日号 全11回)135pの中編。
田島光夫は証券会社に勤めるサラリーマン。銀行窓口勤めの英子と結婚したのだが、間もなく藤沢の英子の実家から金を借り会社も辞め遁走。
別の女のヒモ暮らし。女にも生活にもだらしないのかと思えば、大阪の製薬会社で真面目に営業。しかし、冷酷に邪魔になった女を殺して逃げ回る。そんな破滅的ななりゆき行動男の倒叙形式犯罪小説。

これは自分としてはあんまり気に入ってない。社長の句碑建立から破滅へのラストはすごく清張らしい。語るに過ぎずスパッと終える。

やはりベストは表題作の「陸行水行」。

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