2023年4月25日火曜日

江戸川乱歩「黒蜥蜴」(昭和9年)

江戸川乱歩「黒蜥蜴」を読む。乱歩作品の中でもかなりの有名作で、映画化もドラマ化も舞台化もされているのだがまだ読んだことなかった。
今回は2009年角川ホラー文庫の江戸川乱歩セレクション⑤がそこに110円で売られていたので連れ帰って読む。ちくしょう、「蜥蜴」って書けない。

1934年1月から11月まで「日の出」に連載され、同年12月には「妖虫」と合わせて新潮社より刊行。この年は3月に満洲国で溥儀が皇帝に即位。6月に東郷平八郎元帥の国葬。9月に室戸台風。10月にベーブ・ルースら大リーグ選抜来日。

冒頭、銀座の帝都一のKホテルで派手なパーティーというシーン。女族「黒蜥蜴」の正体は緑川夫人。それ、最初から読者に明かされてる。大阪の宝石商岩瀬商会の岩瀬庄兵衛の一人娘令嬢早苗の縁談のために上京中。
昭和の恐慌と東北の凶作だというのに東京の上流階級はなにやってやがると嫌悪感。

痴情のもつれで女と男を殺してしまって逃亡中の雨宮潤一が黒蜥蜴に助けを求める。潤一は死んだことにするというので、東大医学部に潜入し死体を調達。ここ、大江健三郎「死者の奢り」にも登場した死体貯蔵浴槽。いくらなんでも死体がひとつなくなったら警察に連絡がいかないか?と思ったのだが、そこは管理人も買収してて抜かりがない。

なんと黒蜥蜴が「僕っ子」。女であり男のようでもある。腕には蜥蜴のタトゥー。契約により手下奴隷となった雨宮の前で全裸になってトランクに入ってみせる。
女王は奴隷の前に、どのような姿をさらそうとも、少しも悪びれも、恥ずかしがりもしなかった。
黒蜥蜴は恥ずかしがらない。だってそこにいる男はもはや奴隷だから。そこ、ぞくぞくするw

黒蜥蜴にとって邪魔な存在が私立探偵明智小五郎。こいつの機転によって早苗誘拐は失敗。だが、明智の隙をついてブローニング拳銃を盗み、紳士に変装してホテルから逃走。このへんのやりとりは大人が読んでもワクワクできる。

去り際に早苗に向かって黒蜥蜴
「僕は宝石もご執心だけど、宝石よりも、あんたのからだがほしくなった。決して断念しないわ。ねえ、明智さん、僕は断念しないよ。お嬢さんは改めて頂戴に上がりますよ。じゃ、さよなら」
大阪の岩瀬邸は要塞のように改造。腕の立つ書生と警察官を住まわせ、賊から令嬢を護る。だが、「えっ?!」というトリックで部屋から連れ出され誘拐。外出してた明智探偵地団駄。
黒蜥蜴からの封書が届く。令嬢と交換条件は「エジプトの星」。国宝級の宝石。
なんと、指定の交換場所が通天閣の鉄塔の上。

ここでも明智探偵の意外な策略により黒蜥蜴を尾行。そして洋上へ。
ここから先はもういつもの乱歩。こういうの面白いっちゃ面白いかもしれないが、自分はややテンション下がりつつ後半を読んだ。やはり昭和初期の読者に向けた娯楽読み物だった。

黒蜥蜴が自分が予想してたキャラと違ってた。施設美術館アジトに人間のはく製人形があったりしてサイコだった。洋上で「明智」を閉じ込めた「函」を海に遺棄して水葬してるし…。それ、簡単に聞き流せるような結果じゃなかった。

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