2023年4月13日木曜日

綾辻行人「黄昏の囁き」(1993)

綾辻行人「黄昏の囁き」を読む。「囁き」シリーズを「緋色」「暗闇」と読み進めての最終作。1993年に祥伝社ノン・ノベルとして初刊。2001年に講談社文庫化。
そして2021年に新装改訂版としてでたもので自分は今回初読。(たぶん佐々木琴子はこのシリーズ3作を読んでいる)

東京の医大に進学した津久見翔二くん19歳が主人公。母親からの幾度とない催促で故郷の来栖市へ帰ってくる。
兄が事故死したのだが葬式にも出ていなかった。いきなりタクシーの運転手から兄が自殺ではないかと地元で噂になっていることを知る。津久見家は総合病院の院長で地元で指折りの名士。
兄は落ちこぼれて大学中退後に美術学校に通いイラストレーターを目指してたのだが挫折し故郷に戻っていた。卑屈な兄に言わせれば「実家を追い出されマンションで一人暮らし」。

そんな兄がマンション7階から転落しトラックに轢かれて死亡。津久見家では体裁をつくろって事故死としたのだが、兄は数日前から不審な怪電話に怯えていた。「遊んで…」

そして部屋には五十銭銀貨が置かれていた。兄に古銭を集める趣味などない。趣味と言えばアニメ。死の直前まで「風の谷のナウシカ」を見ていた。そんな人間が自殺するとは考えづらい。

翔二くんはたまたま兄に教えたことがあるという元予備校講師占部と出会う。現在は細々と翻訳などしてる自由人。
この人が頭が良くわりと話が分かる。自分と似た境遇がある。そして兄は殺されたのでは?と一緒に調査。
翔二くんには4歳ぐらいのときに兄とその友達たちと一緒に遊んだかすかな記憶がある。断片的に映像や音声がフラッシュバック。あのときもう一人誰か知らない子がいたはずだ。

てっきり幼少時の不幸な事故を逆恨みした犯人による連続殺人か…と思って読んでいた。だがそれは筆者による周到なミスリード。子どもたちによるイジメとその後のトラックに轢かれた不幸な事故と思わせて置いて、その物語構造はまったく違ったものへとガラガラと大転換。

終盤までは「これはシリーズでいちばん弱いかも」と思ってた。構造が凡庸でないか?と。
だがそれも完全に間違ってた。やはり予想外な物語構造を用意してた。犯人もまったくの予想外。これも驚けた。そう見えていたことは実はそうではない。その光景はおぞましい。

綾辻せんせいのこのシリーズはどれも映像的。まるで絵コンテを活字で説明しているような感じ。そのまま映画にできそう。サスペンスの娯楽作として十分に楽しめた。「囁き」シリーズは3作すべて傑作。

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