W.L.シャイラー(1904-1993)による「第三帝国の興亡」全5巻(1960)の第4巻「ヨーロッパの征服」を読む。昭和36年井上勇訳版の1976年第16刷で読む。第4巻はオランダ、ベルギー、フランス、そして英国。さらに独ソ戦。
The Rise and Fall of the Third Reich by William L. Shirer 1960
世界史教科書でオランダ、ベルギー侵攻もほんの数行だったのだが、この本で読んでもそれほど長くはない。水路の国オランダはドイツ空挺部隊によって5日で占領。空爆されたロッテルダムでは民間人800人が死亡。ウィルヘルミーナ女王と政府首脳は5月14日に英国へ脱出。15日に降伏。
英仏軍と戦っていたベルギーは国王レオポルト3世が英仏に何の相談も通告もなく5月28日の朝に降伏。(この国王はベルギー政府首脳からも国民からも英仏からも見放された。)
フランス軍はもっとあっけない。チャーチルも絶句。あれだけ巨大な陸軍はどこへいった?
6月14日にはキュッヒラー将軍の第18軍によってパリ占領。ボルドーに逃亡したレイノー首相は16日に辞任しペタン元帥に交代。6月22日にコンピエーニュで独仏軍は休戦条約に署名。
ヒトラーは英国を説得し協力させられると思ってた。(戦争しないといけなくなったのは英国のせい!それはポーランドにもフランスにもも同じ論理。今現在のロシアがウクライナに侵攻してるのも同じような自己中理論。)
だが独軍を上陸させる作戦は無理。よってバトル・オブ・ブリテンの航空戦力の抗戦。ここでドイツ空軍は苦戦。だがしかし英国側の損失も膨大。
自分、英国の爆撃機がベルリンを空爆してたって知らなかった。
ドイツはバハマ総督ウィンザー公(元国王エドワード8世)夫妻誘拐を計画してたって知らなかった。
ドイツが西部戦線に気を取られている間にソ連はバルト三国をさらっと勢力下。さらにルーマニアからベッサラビアと北ブコヴィナを奪ってた。ドイツとソ連の関係は冷え込んでた。
リッベントロップとモロトフが同じ防空壕で英国の爆撃をしのいでたの面白い。
独ソ戦開始。開戦を知らなかった人々は憐れ。モロトフはしたたかに生きのびたが、駐ソ連大使シューレンブルクは外交官を引退させられ1944年7月の反ヒトラーグループに連座しゲシュタポによって処刑…という末路。
ドイツ軍の将軍たちは有能だったのでヒトラーが口を挟まなければモスクワを陥落させることはできたはず。将軍たちにとって内部の敵がヒトラー。摩訶不思議戦略で疑念と対立を巻き起こす。退却を絶対に許さない方針に逆らった将軍たちはたちまち罷免。
陸軍総司令官ブラウヒッチュ、ルントシュテット、ボック両元帥、グデリアン将軍、レーブ将軍…。「36名の上級大将のうち18名は引退させられ、5名は1944年7月20日事件で命を落とすか懲戒免職。わずか3名だけの上級大将が地位を保って戦争を生きのびた。」
現場最前線からの要請に鷹揚に構えてたら対ソ連戦争に勝ってたかもしれないのに。そもそもユーゴスラビア侵攻なんてやってなければ1941年の内にモスクワを落とせた。
ドイツは第一次大戦のときもアメリカの軍事力をナメてた。そして今回の大戦もアメリカを過小評価。日本の真珠湾攻撃によってドイツもアメリカに宣戦布告。さらなる破滅。
ドイツは日本に早く対ソ戦に参戦してほしかった。ウラジオストクを攻撃してほしかったのに日本は慎重。近衛-ルーズベルト、野村-ハルの交渉の行方をドイツは心配して見守っていた。アメリカが太平洋の心配をなくしたら勢力を大西洋に割く。
せいぜいシンガポールぐらい攻撃してくれれば英国の戦力をそっちに回して欧州戦線が楽になるぐらいに考えてたら、まさかの真珠湾奇襲。これにはオット大使もリッベントロップ外相も泡を喰う。でもヒトラーは対米宣戦布告。ソ連、英国を倒してからアメリカをやっつけるつもりだったけど、いつか戦う敵だし。
ヒトラーはルーズベルトを嫌悪してた。我々は平和を望むのにルーズベルトがユダヤ人と一緒に世界で戦争起こしてる!
(夏になると日本では戦争特番とかやるけど、日米開戦前夜にドイツが日本の決断と行く末を心配してた様子はあんまりやってない気がする)
スターリングラードの戦いは1943年1月末でドイツ軍は寒さと餓えと衛生の補給が断たれほぼ戦闘不能になって終わる。OKW(国防軍最高司令部)にいるヒトラーから現場に届く電信がことごとく酷い。たまに海外でヒトラーとムッソリーニ、東條、もしくは昭和天皇を並べて揶揄したりすることがあるのだが、誰もがヒトラーには遠く及ばない。
ドイツ兵の命をできるだけ救おうとした第六軍パウルス元帥は自分としては好印象。チャーチルはダンケルクで撤退を成功させた。山本五十六はガダルカナルで失敗した。ヒトラーはスターリングラードの段階ですでに狂ってることを示した。ヒトラーに匹敵するやつは世界史上スターリンとプーチンしか見当たらない。
北アフリカでは連合国軍が優勢。いよいよイタリアが風前の灯火。
1942年5月から英国軍によるドイツ都市爆撃が始まってる。
ドイツの一般民衆は、スターリングラードやエル・アラメインでドイツの将校が経験したと同じく、彼らの軍隊が他国の民に味わわせた恐怖を、初めて自ら体験することになった。
これ、早くロシア人も追体験してほしい。モスクワやサンクトペテルブルク市民もウクライナ市民と同じ恐怖を味わってほしい。
そして最終第5巻へとつづく。
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