2023年1月5日木曜日

未解決事件 File.09 松本清張と帝銀事件

NHKスペシャル 「未解決事件 File.09 松本清張と帝銀事件」が放送された。12月29日にドラマパート、30日にドキュメンタリーパートを放送。夜9時からというゴールデンタイム。NHKは攻めてるなって感じた。

昭和23年1月26日、東京都豊島区長崎の帝国銀行椎名町支店で、日本のみならず世界を震撼させた超凶悪事件が発生。それが帝銀事件。
保健所所員を装った何者かが赤痢の予防薬と称して行員他に毒物を飲ませ12名を殺害。

作家の松本清張は「小説帝銀事件」などでこの事件を追及。なにせ発生時の日本は連合国(米軍)占領下。とてつもなくきな臭いどす黒い謎。
警察の捜査は途中で軍関係者から日本画家平沢貞通に急旋回していた。以後、軍関係者の捜査は一切できなくなってた。

それは怪しい。行員を手中に統制把握しコントロールしながら毒を飲ませた犯人の手口に、軍の臭いと硝煙の臭いを感じる。日本画家にできるような犯罪じゃない。
そもそも警察内の誰一人として捜査方針に異議を唱えないっておかしい。なにやってんの?誰にでもできる簡単なお仕事なの?

物的証拠がなく自白供述だけで犯人とするなら、平沢以外に誰もこの犯行ができたものがいないことを示さないといけない。当時は誰もそこを攻めなかったのか?
ドラマパート(安達奈緒子脚本、梶原登城演出)で松本清張を演じたのが大沢たかお。すごく寄せててびっくり。ここというカットでは口の中に綿かなにか詰めてるの?

松本清張は北九州小倉の極貧家庭に生れ小学校しか出ていない。朝鮮で衛生兵として応召し、復員した後に印刷工から朝日新聞で広告図案を描くようになり、40歳で「西郷札」でデビュー。44歳のときに「或る『小倉日記』伝」で芥川賞。社会派ミステリー作家として社会に影響力のある人気作家に。ドラマではそんな清張の半生も描く。

そして「日本の黒い霧」で知られるノンフィクション作家。占領時代の闇と権力へ怒りの追及。文芸春秋の田川博一編集長とのコンビで事件関係者へと接触していく。

もう今の若者は帝銀事件を知らない。(いやオマエだって知らないだろ)事件の概要を説明しながら、やがて帝国陸軍と石井四郎731部隊、そしてそれを隠ぺいしたGHQ(ほぼアメリカ)へと繋がる壮大な暗黒の深淵。いや怖い。
清張せんせいは、服部卓四郎や有末精三といった帝国陸軍の参謀本部からアメリカ諜報機関の手先になった人からも話を聴こうとして、田川編集長から止められてたってびっくり。
下山事件現場を取材する松本清張…というシーンを見て、あ、この写真見たことあるって思った。(「日本の黒い霧」を初めて読んだとき自分も五反野や椎名町に行ったよね)
あと、「黒地の絵」で描かれた小倉基地からの黒人兵大量脱走シーンも再現してた。

今年は「エルピス」も盛り上がってた。そして松本清張と「帝銀事件」。テレビ業界にも今の状況に危機感を持ってる人がいるんだと。この国の権力は一般国民から厚い壁で遮られていて監視ができていない。
そして、30日よる9時から放送された「74年目の真相」。たぶん、何か新しい証拠がアメリカ公文書館から見つかったか公開されたんだと思ってた。期待して見る。

平沢貞通が逮捕された理由。それは以前その近辺に住んでいて土地カンがあった。生存者の面通しで「平沢が犯人だ」「似ている」とされたから。
だが、生存者のひとり竹内正子さんの証言では、「犯人の顔は卵型。平沢はほお骨が出ていて印象が違う。それに平沢のほうが年をくっている」というものだった。
竹内さんは事件のことをほとんど家族にも話さなかったが、娘さんの話だと「あの人ではないと思う」と一貫して語っていたという。

そして、帝銀事件で犯人が使用した「厚生技官 医学博士 松井蔚」名刺。この松井氏が平沢と名刺を交換したことを覚えていた。
犯人に似ている。松井名刺を持っていた。現場から盗まれた小切手の筆跡。出所不明の大金を持っていた。などなどの線から逮捕。自供に追い込まれる。
終戦直後の警察がどのように取り調べをしたのか?容易に想像がつく。平沢も公判でそれをほのめかし自供を覆して否認に転じた。

今回、番組で門外不出とされていた再現フィルムが登場。警察で再現映像が撮影されたことは「小説帝銀事件」で知っていた。初めて実物を見た。(平沢の目の前に突っ立ってる無表情無言男は何なん?)

この平沢の供述と犯行手口の再現が、公判のものとまるで違っている。生存者が目撃した駒込ピペットの持ち方と違うし、飲み込み方の説明しぐさも違う。A試薬を飲んでB試薬を飲むインターバルも違う。
当時はなかった「テキストマイニング」という手法で立命館大学の稲葉教授が取り調べ調書を分析。犯行に使われた毒物が「青酸カリ」とされたのは、取り調べ2日目で高木検事が「青酸カリ」という言葉を切り出したから。

コルサコフ症という虚言癖妄想癖のあった平沢は、犯行自供後は「塩酸」という言葉を使っていたのだが、検事の「青酸カリ」にひっぱられて、以後に青酸カリという言葉を使って供述説明していく。
(今後は何か冤罪をでっちあげないといけなくなった刑事や検事は、後世の分析に耐える文書にしないといけない。大変な世の中になった。)
警視庁の甲斐文助捜査一課長が事件から平沢逮捕までの7か月の2289ページにおよぶ捜査手記を残していた。これを明治大学の山田教授が読み解く。

松井名刺や目撃証言を重点的に当たっていた捜査員たちはやがて、松井博士が南方防疫給水部に関わっていて、その線から731部隊と、第九研「登戸研究所」に行き着いていた。早々に日本軍の秘密部隊が捜査線上に浮かんだ。
捜査員は石井四郎元隊長の居場所を突き止めて話を聴きに行く。石井「それ、俺の部下な気がする」
さらに、登戸研究所幹部だった伴繁雄の証言によって遅効性の毒薬「青酸ニトリール」の存在を把握。
厳重に管理されていた青酸ニトリールがどうやって外部に流出した?戦後すぐのころは元所員が自決ように持ち出すことを容認していたらしい。それは元登戸研究所の北沢隆次氏がそう証言してる。(番組ではその肉声テープも公開)

だが731部隊に関する捜査はタブー。細菌戦や人体実験に関するデータはアメリカ軍が接収し保護。部隊関係者は末端に至るまでGHQ(アメリカ軍)が戦犯訴追を免訴し保護。(石井部隊は中国・ソ連にとっては憎む敵だが、アメリカ人からすると有用な人物)
これにより、元隊員たちは固く口をつぐむ。それは取引。
帝銀事件の闇を調査研究してるアメリカ人ジャーナリストがいる。ウィリアム・トリプレット氏はアメリカ公文書館から帝銀事件に関するGHQの文書を発見。
秘密部隊731部隊を帝銀事件と関連付けて警察が捜査してることを知らせるような記事の掲載を止めさせていた!日本国民は最初から知る手段がなかった。

新聞記者の証言によれば、このころに警視庁の刑事部長から「取材をやめてくれないか?権威筋からの命令があるのでやめてくれ」とくぎを刺されたらしい。
さらに、番組は元GHQ諜報員アロンゾ・シャタック氏(96歳!)にインタビュー。「当時のGHQは石井部隊の研究データを得ていた」「全容を把握していた」

帝銀事件の8か月前のトップシークレットの判が押されていた書類に、石井部隊にいた隊員たちの「免責」が書かれていた!そのことは口外が固く禁じられていた。石井部隊の存在が世に知られることをGHQは望んでいなかった。
石井四郎部隊長の自宅には「GHQ関係者が年中来ていた」「アメリカとソ連が父を取り合いしていた」「どうしてもデータがほしかった」と娘さんが証言する肉声テープも公開。

松本清張が聴き取り調査したくてもできなかった有末精三と服部卓四郎の元へも捜査員が行って話を聴いている。
有末「軍の秘密を聴くのは無理。似寄り写真などから捜査すれば?」
服部「石井部隊にはGHQがついてるってことを忘れるなよ」
軍という組織はセクションごとに秘密は他に漏らさない。それは戦争が終わっても絶対。

警察が最重要容疑者としてマークしていた人物がいる。満洲で中国人やソ連人の反日スパイ活動を取り締まっていた元憲兵A氏だ。「反日活動家を毒殺したことがあるらしい」「帝銀事件のような犯行をやりかねない」「目撃証言のモンタージュ似顔絵によく似ている」と捜査手記に書かれている。
戦後にまとめられた「全国憲友名簿」という名簿書籍にその憲兵Aの名前は確認できる。昭和49年2月24日に亡くなっているという情報を得た。Aの実名を知りたければそこからたどれそうだ。

もし昭和20年代30年代にFOCUS編集部の清水潔氏のような人物がいれば、このA氏の写真を撮影することも可能だったろうに。この人物がどれぐらい目撃似顔絵に似ているのか知りたいのだが、その写真がない。

青酸ニトリールという名前を出してしまった登戸研究所の伴繁雄は、公判のための意見書で犯行に使われた凶器を「青酸カリ」と変えてしまった。結果、平沢の死刑判決に加担。
だが、登戸研究所資料館に伴の手記が遺されている。これによれば、GHQ・G2(参謀二部・諜報部門)に召喚。威圧的に「巣鴨プリズンに収監する」と脅されたらしい。「ギブアンドテイク」の約束をしたらしい。その後は一切事件に関して口をつぐんだ。それは怖ろしい。GHQの占領が終わって日本が独立国になった後も一切喋れないとか怖い。

秘密部隊に所属していた元隊員が、わが身可愛さと身の安全のために口をつぐんだのはわからないでもない。だが、多くの捜査員が軍関係者を捜査していたのに、日本の警察は上からの圧力でいっせいに末端に至るまでが方針を変えた。気骨のある警察官はひとりもいなかったのか?恥ずかしくないか?

無辜の市民12名の命が奪われたのに、真犯人が別にいる可能性があるのに、知らん顔で平沢に罪を押し付けた司法も警察と同罪。(歴代法相はたぶん何かを知ってて死刑執行命令に判を押さなかった)
「慎重に判断した結果死刑が相当である」と判決を下した江里口清雄裁判長以下、裁判官たち全員も同罪。青酸カリ飲んだらすぐ苦悶して絶命するだろが。目が節穴なの?
あと、記者クラブ制度で警察と協力共存してる大手マスコミ。自分の仕事を子どもたちに胸を張って言えるのか?

今現在20回目の再審請求中。検察は取材に対し「個別の事件には答えられない」という回答。
じゃあ何なら答えられるんだ?検察って何のためにあるんだ?国民から何を隠してるんだ?検察は国民の敵なのか?もっとオープンに裁判や証拠を論議できないのか?改組する必要はないか?

とても素晴らしい番組だった。あと、この未解決事件Fileのテーマ曲で聴こえる女声ボーカルが、今年亡くなったおおたか静流さんだったことに今回初めて気づいた。

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