2023年1月4日水曜日

鮎川哲也「太鼓叩きはなぜ笑う」(1973)

鮎川哲也「太鼓叩きはなぜ笑う」を創元推理文庫(2003年初版)で読む。これが安楽椅子バーテン探偵譚「三番館シリーズ」の第一集。1972年から73年にかけて雑誌に掲載された短編5本を集めた一冊。これは昨年3月にBOで110円で購入。では掲載順に読んでいく。

春の驟雨(小説サンデー毎日1972年1月号)
突然の驟雨、雨宿りで入ったデパートでスカートを斬りつけられたと婦人から冤罪を掛けられた青年はショックで仕事を休んで鎌倉へ行ってぶらぶら。だが、その婦人が殺害され容疑者になってしまう。アリバイを証明できるのはトタン屋根を塗っていたペンキ職人だけだが、鎌倉を探しても該当する屋根の家が存在しない。

弁護士から依頼された探偵が無実青年のアリバイを証明するべく奮闘するも行き詰まり、銀座の三番館のバーテンにヒントをもらう。

これがこの本の中で一番面白かったかも。このシリーズの探偵は毎回最後が突破できずにバーテンを頼るけど、わりと有能な気がする。

新ファントム・レディ(小説サンデー毎日1972年9月号)
製薬会社課長がゴロツキ探偵に艶文の件で強請られそうになるのだが、課長夫婦は双方で浮気公認で強請りを追い返す。だが、その探偵が後日殺害。
容疑者になった課長は夜な夜な女漁りをしていたのだが、行きずりの女性と行った中華料理店の従業員がそろって「そんな人は来ていない」という。

そして探偵さんの奮闘もむなしく、課長のアリバイを証明できない。だがバーテンさんがヒントを出す。「アイリッシュの『幻の女』を読んだことある?」
ま、そんなことだろうと思ってた真相だが、バーテンさんの論理の確かさと知識の豊富さに驚く。

竜王氏の不吉な旅(別冊小説宝石1972年9月爽秋特別号)
スーパーで万引き容疑を掛けられた夫人の夫からの依頼。夫人を強請ろうとしたスーパー主任が殺害されて容疑を掛けられている。探偵はもう一人の容疑者(作詞家)が怪しいと踏んでアリバイ崩しにいどむ。
これは鉄道アリバイ崩しを含むのでちょっと古さと時代を感じる。
小岩のキャバレーは土地を売って大金を手にした東武鉄道沿線の農民とその倅が客としてやってくる場所?そのへんの事情は大正生まれの著者ならではの知見。

白い手黒い手(小説サンデー毎日1973年3月号)
楽器店にかかってきた電話で幕張までおびき出されたピアノ販売営業が殺人事件の容疑者にされる話。
ここまで読んだすべてで動機があってアリバイがないだけで、もれなく警察に逮捕されている。すべて真犯人の思う壺。いくらなんでも警察はこんなにアホじゃないと信じたい。
本来なら警察がやるべき裏取り調査をすべて探偵がやってる。こんなの誰だって「警察、ちゃんと仕事しろ!」って思う。

太鼓叩きはなぜ笑う(小説宝石1973年5月号)
これも恐喝されてる被害者が、恐喝者が殺されてさらに容疑者にされる話。とにかく警察がアホ。
この短編に収録されている5本どれもおなじテイストで味に変化がない。「またあ?」って思わずにいられない。ただ、バーテンさんの着目ポイントには感心する。

これで個人的に鮎川「三番館シリーズ」3冊目だったのだが、今までで一番刺さらなかった。どれも似た要素の作品。ユーモアが足りない。松本清張短編と似た雰囲気。

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