2022年秋ドラマとしては「Silent」には及ばなかったかもしれないが世間の注目も高い話題作。脚本の渡辺あや氏とカンテレの佐野亜裕美(東大卒)が6年温めてた企画。たぶんだがふたりは2000年代に出版された清水潔氏の調査報道ジャーナリズム本に触発されたに違いない。
第3話まで脚本ができた段階で主演を長澤まさみにオファー。まさみは即快諾だったらしい。
演出に大根仁の名前がある。長澤まさみと大根仁といえば「モテキ」。この監督はほれ込んだ女優がブスに映ることを許さない。今回のドラマもまさみシーンがどれもビシッとまさみの表情が決まってた。それと日本の民放ドラマらしくないカットがさすがだ。じっくり時間をかけて撮ってたのかもしれない。
音楽は大友良英が担当。そこも話題。
長澤まさみ演じる浅川恵那は元人気ナンバーワン女子アナ。路上キス写真を撮られて報道ニュース番組から深夜情報バラエティに左遷され人気女子アナの座から転落…という役どころ。
えなーズアイというコーナーを持ってるのだが、アイドル女子アナに徹して笑顔を振りまきテキトー投げやり。
そんな満ち足りない日々を過ごしてると、一流大卒だがテキトーぼんやりAD岸本拓朗(眞栄田郷敦)がもたらした冤罪死刑囚の問題。こいつを調べてみると県警がかなりずさん捜査をしていたことが判明。何かにとりつかれたように調査開始。
人気失墜女子アナの逆転を狙った大博打。というか冤罪被告と被害者遺族への同情と真実のための戦う決意。情報番組のコーナーでゲリラ放送。世間の反応もかなりいい。
従来のまさみ地上波ドラマにはなかったシリアス路線。フザケまさみを封印。
まさみは日本映画でも多くの受賞歴があって真面目に真剣に演技に取り組んできた人。だがその一流の演技力がまだお茶の間に浸透してなかった。長澤まさみの真剣シリアス演技と力量に多くの人が驚きと賞賛。
この女子アナがずっと水しか飲んでいない摂食障害。そして睡眠障害。(なのにキレイ)
だが、健康管理のために日々ランニング。トレーニング姿で出社。
写真週刊誌の件で一度は破局した報道部官邸キャップの斎藤正一(鈴木亮平)とまたいい感じ。すると食事も採れるようになるし、眠れるようにもなる。
かつての男がまた部屋に出入りするようになると女子アナはでかいベッドを買っていた。「じゃあ、なんでベッド買ったの?」には視聴者からツッコミと悲鳴w この男が女の部屋に自分の居場所を作っていく。
今回驚いたのが女子アナまさみが上司チーフプロデューサー村井(岡部たかし)から「ババア」だと徹底的にセクハラパワハラされてること。まだ32歳なのに。どうしてこんなやつが社内コンプライアンスに引っかからずクビにならない?
仕事ができるのか?いや、そんな感じじゃない。偉い人に媚びへつらう処世術がありそうにもみえない。自分にはこの人が初回からリリー・フランキーに見えていた。
スナックでのカラオケ打ち上げ飲み会シーンが酷い。なぜに選曲が「ガラガラヘビがやってくる」なん?
テレビ局報道と政治、警察の上層部、司法、検察、そういった一般庶民にはまったく目に見えないどす黒く渦を巻く闇。よほどの覚悟がなくては冤罪を扱えない。
調査するにつれ明らかになっていく不審な点。情報を持って接近してくる刑事、岸本が脅迫したからと圧力をかけてきて岸本を解雇させるシーンには多くの視聴者が怒りと困惑。
視聴者もそのへんの脚本に釘付け。
第1話で安倍晋三首相の映像が流れたときちょっと世間でザワついた。だがこれは死者を揶揄した意味合いはまったくない。
ハリウッド作品でも当時の雰囲気を表すために大統領テレビ演説画像を入れたりすることはよくある。
テレビ報道は政治家の言葉を無批判に伝えるだけの公報機関になってはいないか?という自己への問い。
自分からするとやはりフィクションの限界も感じた。ストーリーに無理がないように整えられた感じ。固有名詞はすべて仮名。
現実リアルのほうがもっとフワッと謎や矛盾や闇があって得体がしれないし怖い。
警察が批判の矛先が向かないように、被害女性が一般市民と違う派手好き風俗嬢のように情報操作リークしてくるとか、過去に警察が実際にやった所業。それぐらいこの社会は腐ってる。
弁護士六角精児もいかにも国選弁護人っていう蛇のような目をした感じがぴったり配役で感心。
だが、偽証した目撃証人が逃亡した件で浅川に怒りの電話をしてて「?!」って思った。あいつの顔を見れば被告側のために偽証を認めてくれるようなタマじゃないだろ。どこかでひっそり処理されてるのがオチだろ。むしろ浅川岸本チームに感謝すべきだろ。
その一方で岸本の母筒井真理子弁護士がまるでバブル時代のマダム。息子を甘やかして育て「冤罪と再審請求」に質問してくる息子に対して「そんな難しいこと考えないでいい」とか、とても司法関係者母が言うようなことじゃない。意識低すぎ。
このドラマの主人公は途中から眞栄田郷敦岸本になっていた。はあぁ、この俳優はいままで軽い役しか見てなかったので衝撃を受けた。序盤の軽薄さが嘘のように激変していった。ひとつの事件を追うと人生が狂う。そんな役をドラマにはもったいないぐらい立派に演じてた。
斉藤鈴木亮平とまさみのシーンがいままでドラマで見たことないぐらい大人のシーン。仕事も充実、恋にも希望。小料理屋で指輪…というシーンでのまさみの笑顔は見るのがつらかった。(インスタの写真もしゃれになんないぐらいつらい。実生活でこんなことがあったりしないか心配)
まさみは結婚とか興味を持ってほしくない。できれば男が嫌いでいてほしいぐらい。
浅川は冤罪の証拠をつかんで世間の注目をあびて報道部のメインキャスターへ返り咲く。だが官邸と強いパイプを持つ斉藤は窮地。局を退社しフリーの評論家へ。三十代の女にとって男が去っていくって泣き叫ぶほどの事態なのか。岸本主役回ではむしろ浅川も体制側の人間のようで怖いし困惑だった。「現場はもっと複雑」とか言うやつには聞く耳をもたなくていいが、みんな家族を養わないといけないとか言われると言葉がない。
今回のこのドラマ。事前から話題作になると聞かされていた。その通りだった。
政権スキャンダル報道とテレビ。今までになかったドラマだった。最初から最後まで面白かったし次回も見ようという推進力がストーリーにあった。
最終回もよかった。日本の闇は誰も全体像を見ることはできない。水戸黄門や遠山の金さんみたいにスッキリと悪人を成敗なんてしてくれない。こんなラストがふさわしい。
実際の過去の政権スキャンダルと報道の現場も最終回みたいなギリギリの取引があったのかもしれないなと思わされた。これをみればロッキードやリクルートで秘書が何人も自殺したり、証人喚問でブルブル震えて宣誓署名できない事態も理解できた。
2時間の映画でできないことを、全10話でできる適切な配分で過不足なく伝えていたように感じた。脚本と演出、そして出演者。みんなの献身努力ががっちり噛み合ってた。2022年を代表するドラマだった。
中学生のときから見ていた長澤まさみがすっかり大人の女性になってしまっていることを思い知らされた。このドラマを見るまで、自分はどこかまさみを「プロ大」や「ラストフレンズ」のころのまさみのままで見ていた。もうまさみのほうが自分よりも完全に大人。
なにせ出演作がすべて話題作になるという国民的女優。仕事とキャリアの積み重ねがさらに女優としての高みへ。もうはるか先を進んでる。もう手に届かない距離にいる。もうまさみちゃんなんて気安く呼べない。ちょっと哀しい。
このドラマはエンディングも楽しい。ノリノリで明るく楽しく料理してたら、途中からダークな雰囲気になっていく。ドラマを象徴するシーン。
主題歌Mirage Collectiveの「Mirage」。まさみは歌唱でも参加。MVにも登場。
まさみは2022年も映画とテレビドラマを両輪にして活躍。すごい女優だよまったく。
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