2023年1月10日火曜日

ソルジェニーツィン「イワン・デニーソヴィチの一日」(1962)

アレクサンドル・ソルジェニーツィン「イワン・デニーソヴィチの一日」(1962)を木村浩訳の1963年新潮文庫版で読む。(今も邦訳はこの木村訳しかない?)
これが自分にとって初のソルジェニーツィン。

アレクサンドル・ソルジェニーツィン(Александр Солженицын 1918-2008)は北カフカースのキスロヴォツク(現スタヴロポリ地方)出身。世界に名を知られるきっかけは今作。当時は中学教師だった。

自身の収容所体験をベースにしてる。ほぼ自伝。(この人はソ連収容所レポみたいな作品しかないイメージ。)
シベリアの収容所を世界に知らせることはそのままソ連の恥部をさらすこと。よって当局からは弾圧。
クラシック音楽を聴く人は、国際的に有名だったチェロ奏者のロストロポーヴィチがソルジェニーツィンを擁護し自身も苦境にたち亡命…ということは知ってるかもしれない。

読む前に予想がついたのだが、シベリアの極寒の収容所生活を、とくに大きなストーリー展開があるわけでもなく、淡々と描いてる。「髭の親父」(スターリンの隠語)が存命中。
時期的に朝鮮戦争が始まり中国が参戦したことがラーゲリのバラックで噂になってる。たぶん1950-51年にかけての冬かと思われる。

収容所にはエストニア人やラトビア人、ウクライナ人、モルダヴィア人、バプテスト信者などもいる。
少ない食料の配給が唯一の楽しみ。パン1個をめぐって争う。看守が怒鳴る。生き抜くために知恵を身に着ける。そんな小説を読んでも苦行であって楽しいことはない。

閉鎖されたラーゲリという世界。現代日本も似たようなものだなと感じた。これまでの人生における集団行動で起こった嫌な事をいろいろと思い出して不快になった。

日本人はシベリア抑留体験を語り継いで聞かされてる。それほど新鮮な驚きもない。だが、氷点下41度を下回らないと作業は休みにならないと知った。

ロシアや中国では今も政治犯は収容所。この小説は過去のものではない。
日本がちょっと軍事予算増やしただけで批判される覚えもない。日本にはロシア人、中国人スパイを収容するラーゲリ群とかない。

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