2023年1月17日火曜日

ディクスン・カー「絞首台の謎」(1931)

ジョン・ディクスン・カー「絞首台の謎」(1931)を和爾桃子新訳の2017年創元推理文庫版で読む。
東京創元社さんは近年どんどんカー新訳を出している。原題を直訳すると「最後の絞首台」だが、伝統的に「絞首台の謎」と呼ばれる。「パリ警視庁の魔王」アンリ・バンコランの活躍を描く長編第2作。
THE LAST GALLOWS by John Dickson Carr 1931
もうディクスン・カーは読まなくていいかな?と思っていた。最初に読んだ長編「皇帝のかぎ煙草入れ」短編「妖魔の森の家」こそ新鮮で面白かったけど、「火刑法廷」「ユダの窓」はそこそこ。もうそれ以外はどれもつまらない。現代日本人には理解しずらい。

しかし、新訳版が出るということは創元社さんが読んでもらいたい作家なんだろうし、横溝もカーを高く評価してるし、日本の新本格以降の作家たちもみんなカー作品をリスペクトしてるらしいしで、しかたなくつきあう。もう読み始める段階でそれほど期待していない。

様々な古い小説や映画、ドキュメンタリー映像なんかを見ることで、ようやくこの時代のロンドンやパリの街並みがイメージできるようになってきた。だが、現代の我々には欧州の1920年代30年代の上流階級のことはよくわからない。それに1m先もよく見えないような濃い霧というものは経験したことがない。夜の闇に霧が加わると、もうそこは幻想怪奇の世界。

もう最初からザ・ケレン味。霧のロンドンを走る首を斬られ死んでいる黒人運転手の車。エジプト人富豪の失踪、地図上に存在しない街、決闘による殺人への復讐?絞首台模型を送りつけるジャック・ケッチ(死刑執行人)。意外に狭い人間関係。前半は雰囲気に惑わされつつも、もしかして面白いかも?と期待はさせてくれた。

でもやっぱりいつものディクスン・カーだった。文体がわかりにくい。表現の仕方が独特。イメージしずらい。何やってんの?と突っ込みたい箇所多数。

暗闇で手探りで犯人を罠にはめる。そこはサスペンス要素。だがグダグダ長い。
語り手マールくんのラブコメ要素はユーモアにおいてクリスティーに遠く及ばない。
そもそもバンコラン探偵がたいして調査していない。なのに偉そう。(パリ警察の偉い人なんだから仕方ないが)

外階段出入り口とか秘密の部屋とか、そんなものは読者にとって謎でもない。どうでもいい。
犯人が意外であればそれでいいってわけじゃない。
でも、違和感箇所の伏線回収は上手く行ってる。
それにしても悪党へのバンコランの対応と措置は司法警察官としては異常で残忍。

0 件のコメント:

コメントを投稿