2022年12月6日火曜日

内田康夫「十三の冥府」(2004)

内田康夫「十三の冥府」を2004年実業之日本社版で読む。「月刊ジェイ・ノベル」誌に2002年4月号から2003年12月号まで連載されたものを加筆修正しての初単行本化。

数年前に「偽書東日流外三郡誌事件」という本を読んだとき、このミステリー小説の存在も斜め視界に入っていた。気になっていた。やっと読んだ。442ページの長編。

浅見光彦が寄稿している旅行雑誌がよせばいいのに「都賀留三郡史」特集を真書派論調で掲載してしまい抗議の手紙と電話が殺到。後始末の取材を浅見光彦に依頼。
いつものようにソアラで青森十三湖を目指すのだが、途中の北茨城市にある皇祖皇太神宮や、新郷村のピラミッドやキリストの墓で光彦はどんどん気持ちが萎えて行くw
(市町村自治体は実名なのに登場人物や固有名詞は仮名になってる)

で、お遍路姿の中年女性(愛知県宝飯郡御津町)が絞殺死体となって発見された事件を光彦は宿泊した民宿で知る。被害者女性がこのあたりでは聴かれない童歌を口ずさんでいるところを八戸の蕪島で女子大生が目撃。
え、このあたりでお遍路ってほとんど見ないんだけど?地元民もいぶかる。しかも徒歩で行くとは信じられない距離。この女性は何目的でお遍路を?

浅見光彦はいつものように好奇心で現場に介入し、警察も知らない情報を推理し披露しで不審者扱い。
自分、浅見光彦シリーズを読むようになってこれでまだ2冊目ぐらいなのだが、毎回毎回地元警察に不審者扱いされ「ちょっと署まで」となっている。フリーライターで独身の光彦に対し警察官がもれなく無礼な対応。(ここ、活字で読むとムカつくし怒り心頭。ドラマで俳優がコミカルにやれば笑えるシーンではある)
内田康夫さんも過去に何度も警察官に嫌な目に遭わされたんだろうなってわかる。

だが、浅見光彦の兄は警察庁のトップという超エリート。それを知った田舎警察の幹部たちはササーっと顔が青ざめる。そこは爽快かもしれないが、エリート権力者の笠に着る姿はそれほど気持ちいいものでもない。それは光彦本人が極力避けている。このシーンがお約束のように毎回ある。しかもわりと長々と。
浅見光彦はもう兄のコネを使って探偵登録すればいいのでは?現場で堂々と「探偵です」と言えばいいのでは?無礼な態度をとった警察官は「不適格」査定で平巡査に落とせばいいのに。

偽書東日流外三郡誌事件について知識がある人はこの小説をより楽しめる。内田康夫がこの連載を始めたときはもう完全に、東日流外三郡誌は偽書扱いが優勢どころか偽書判定が完全定着。
おそらく、東日流外三郡誌が大論争になっていたとき、青森とその他で繰り広げられたであろう会話がこんな感じだったと活き活きと再現w

この小説でも現地民は「あんなものを信じるのはバカ」「アラハバキとか嘘っぱち」
だが、偽書派の大学教授の不審死、古文書が発見された屋根裏を知ってる大工の棟梁も不審死、大工棟梁不審死を目撃していた大工は自宅で刺殺。これはやはりアラハバキの祟り?!

青森各地を縦横無尽に移動して光彦は一歩一歩事件の真相を知っていく。そういう紀行社会派ミステリーばかり書いたのが内田康夫。
内田康夫は宗教の怖さとキチ○イっぷりを嫌悪していた様子。狂った主張をするやつらとは話が通じない。自分たちが信じる神を否定するやつらは敵なので排除するという態度を批判。ところどころでイスラム原理主義やオウムも批判。毎度毎度、作者の意見ページが多い。

全体の4分の3ほどでだいたいの構図が見えてきて、あとはアリバイと証拠固めかな…と思っていたのだが、正直、自分は途中から全体像を見失いつつあった。最後の最後で急に登場した老婆に「誰?!」って思ったw 

出生の秘密、病院での取り違え、童歌の遠い記憶、異常に性欲の強い男に運命を狂わされた哀れな女たち、なんだか雰囲気がどんどん横溝正史っぽくなっていった。

方々を訪ね歩く浅見光彦の姿を、「病院坂」で東北各地を訪ね歩く金田一さんの雰囲気と色合いで脳内再生。最後の老婆を自分は白石加代子で脳内再生。市川崑の演出とカットとBGMで脳内再生。

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