内田康夫「信濃の国殺人事件」(1985)を読む。1990年に講談社文庫化。自分が今回読んだものは長野各地の交通と土地に関する誤りを正した1994年改訂版。
これも無償で配布されていた図書館廃棄本を拾ってきたもの。とくに読みたいというわけではなかった。そこにあるから読んだ。自分、人生で内田康夫を読むのはたぶんこれで4冊目ぐらい。
本好きで内田康夫を愛読しているという人をあまり見かけない。たぶん内田康夫はほとんど話題にもなっていない。
この作品について言及している人はたいてい2時間ミステリードラマに関して。内田康夫は2時間旅情ミステリードラマ作家。今作も「信濃のコロンボ」こと竹村警部(長野県警)を主人公とするシリーズのひとつらしい。
長野県各地で遺棄された絞殺死体が次々と見つかる。年齢も職業もバラバラ。
最初に殺されダムで発見された被害者が地元新聞社の論説記事を書く本社記者。日頃折り合いの悪く、小諸支社に追いやられる中嶋記者が容疑者となり逮捕されるのだが、これが別れる直前に口論しアリバイがないという理由。さすがにそれは酷い。証拠がなにもなければ起訴できない。
中嶋記者の新妻洋子夫人(大阪からやってきた)のキャラが良い。夫の無念を晴らすべく、次々発見される殺人と死体遺棄事件の発見場所の共通点に最初に気づく。死体発見現場が長野県の県歌である「信濃の国」第4番に登場する名勝じゃないのか?
そして、被害者たちのさらに別の共通点に気づいて調べていた新聞社の同僚記者も死体となって発見される…。
さらに、被害者4人の予想外な共通点が判明。ここを読んだとき、エラリー・クイーンの「九尾の猫」なみに驚けた。
あとは竹村警部とその部下が捜査していって糸口をつかんでいく。いろんなことが起こって犯人に迫っていく娯楽読物。じつに2時間ドラマらしい。期待しないで読んだけど、それなりに面白かった。
だが、自分なら重厚な人間ドラマとジメジメした部分は読者に想像させるだけで一切カットしてバッサリ終える。竹村と対立するライバルエリート刑事をきっちり打ち負かしてほしかった。でもこれこそが内田康夫なのかもしれない。
まだケータイ電話もないし長野新幹線もない時代。本編中で被害者の車が滋賀県で発見されるのだが、この本が書かれた当時はグリコ森永事件の最中。滋賀県警は不注意で不審車両を取り逃した反省から放置車両には日々パトロール中に注視していたらしいことが書かれてる。
ちなみに、長野県人が47都道府県で唯一ほぼ全員が県歌を歌えるという話は本当だ。学校教育の現場やお役所関係の式典会場などでも必ず歌われる。県出身者が東京や他県で集まれば県歌「信濃の国」を唄い出す。昔、自分もその現場に居合わせて「えっ…?!」と思ったことがある。
信濃国(長野県)はひとつにまとまった時代がだいぶ下る。有力な戦国大名もいないし有力藩もない。しかも廃藩置県後も北部と中部・南部で別の県だったのが合併してできた。松本のあった旧筑摩県の人々は今も長野のある北信を冷めた目で見ている。南北を結ぶ交通インフラが弱い。1998年の長野冬季五輪誘致にすら反対したw
そんな長野県人について冒頭で語っている内田康夫は東京北区出身だが軽井沢町在住だった。長野県について日々見て肌で感じていろんなことを知っていた。その結果生まれたのがこの「信濃のコロンボ」シリーズだと思う。
冤罪逮捕された中嶋への周囲の視線が冷たい。「なんといっても『破戒』を生んだ土地だからね」と言わせたり、竹村警部に「まったく長野県はだだっぴろく、不便な土地だ。」とも語らせている。長野に多少はネガティブなイメージを持っていた様子。
あと、この本だけを読んでも竹村警部がどういう容姿なのか?何歳ぐらいなのか?家族は?といったことは一切わからない。なのでどの俳優が演じてもよいはず。イメージ自由。
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