2022年10月3日月曜日

カフカ「審判」(1925)

カフカ「審判 Der Process」(1925)中野孝次訳1992年新潮文庫版で読む。

カフカは生前に出版された短編集を除いて「すべて読まずに破棄」が遺言だったのだが、友人が出版してしまったw 死後、世界で読まれるようになり、日本では1950年代から進んだ人々によって読み継がれ邦訳されていくという経緯。

断片原稿だったので、どういう順番で読むべきか?という先人たちの苦労と知恵によって一冊の本にまとまった。研究者たちの努力によって現代の読者はこの本を読むことができる。新潮文庫版では321ページで本編は終わり、残りのページで「断章」を掲載。

本人に他人に読ませる意図はなかったのに、今もブックレビューで「つまらない」とか書かれるのってどうなの?少なくとも作者のせいじゃない。

で、自分は今年「変身」「城」と読み、今回「審判」を読んだ。裏面のあらすじ書きでは
「平凡な銀行員ヨーゼフ・Kは何も悪いことをしないのに、ある朝突然逮捕される。その理由をつきとめようと懸命に努力するが、不明のまま”犬のように”殺されてしまう。」
とある。だが今回自分が読んでみて、それはだいぶイメージと違うなと思った。
読む前は、ゲシュタポやNKVDみたいに突然やってきて有無を言わさず逮捕連行され尋問されそして殺される」という酷い展開を勝手に予想してた。

朝部屋で寝ているとフランツとヴィレムという「監視人」に起こされ「逮捕」されるのだが、この二人が典型的な末端下級の公務員で、自分が何をしたのか?聴いても答えてくれないしぶっきらぼう対応。裁判所の逮捕状もなしか?理不尽。ここは読者も憤る。

だがその後、主人公Kは割と自由に行動。職場にも行ってる。なんで?殺されるほどならよほどの重罪なのに、拘束もされていない。あちこちでいろんな人と話をしてる。これが予想外。
読んでて、ほぼ「城」と同じような雰囲気だなと感じてた。会話する相手のイメージがよくつかめない。みんなそれなりに理屈があるし知性がある。なんか、話を聴いてると全員もれなくちょっとムカつく。

だが、一番イメージと違っていたのが主人公Kだった。こいつが反抗的だし弁が立つし、気位が高いし他人を見下してる。銀行の業務部主任らしい。それなりに法律知識もあるはず。だが、予審判事、弁護士、その他、話がかみあわない。はぐらかされてるのかもだが、何か誤解され刑事訴追された被告の取るべき最良の方法をとっていない。
結果、読者もイライラ。指の間に水掻きがある女が登場してきたときは、どう読めば?とさらに混乱。

人によっては何かクライムサスペンスを期待して読んでしまうらしい。それは大いなるカン違い。
ほぼ村上春樹のそれ。何か伏線があって回収されたりすることもない。スリリングな手に汗握る展開もない。読んでいて爽快感もない。退屈させない仕掛けもない。そういう娯楽作品ではないので仕方がない。ある程度の忍耐が必要。

Kは逮捕以前のことを何も語っていない。情報不足。本当に何もやっていないのか?ただ単に語っていないだけなのかもしれない。

イタリア人(ビジネス顧客)を大聖堂に案内してたのに、急に僧侶がでてきて「教誨師」を名乗り、役に立つんだか立たないんだかわからない説教をされるのとか、主人公でなくとも腹が立ったw とりあえずスイスにでも逃げろ。
てっきり、もしも司法制度がテキトーな世界があったら?という「もしもボックス」的寓話か、もしくは官僚機構やお役人たちを批判する内容だと思って読み始めたけど、最後は暗殺場面?!

カフカを読むことは何か役に立つから読むわけでもない。何か最悪な事態になったとき、まあそういうこともあるよな…ぐらいの心構えになるかもしれない。

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