2022年10月15日土曜日

岩波新書1771 シリーズ アメリカ合衆国史②「南北戦争の時代」(2019)

岩波新書1771 シリーズ アメリカ合衆国史②「南北戦争の時代」貴堂嘉之(2019)を読む。著者は一橋大学院教授でアメリカ合衆国史、人種、ジェンダー、移民の研究家らしい。
この本では19世紀、第5代モンローから第25代マッキンリー大統領までの時代を扱う。

第3代ジェファソン大統領はナポレオンからルイジアナを購入(1803)し国土が2倍。1812戦争によってナショナリズムが高揚。戦争に協力しなかった北部ニューイングランドと連邦派は力を失う。
アパラチア山脈以西への移民が増加。1845年のじゃがいも飢饉ではアイルランド移民、1848年革命ではドイツ移民が増加。アメリカ合衆国は西へ拡大していく。

気付けば合衆国は奴隷制度で揺れていた。北部は奴隷反対の自由州、南部は綿花プランテーション経営に奴隷労働が必要という奴隷州。
奴隷州って嫌な言葉。奴隷農園の戸主が亡くなって財産競売のリストに奴隷の年齢と金額が書かれている。1人でも複数人数でも可。ということは、奴隷の家族はバラバラになる。
1857年ドレッド・スコット裁判の連邦最高裁での判断が酷い。「憲法上奴隷は市民でなく提訴する権利もない」「奴隷主から奴隷を奪うことは財産権を奪うもの」
奴隷制度を廃止した年がアメリカとブラジルはかなり遅い。(ロシアも)

しかも、ジャクソン大統領時代にはジョージアとアラバマの先住民をミシシッピ川以西に強制移住させる計画も。すべて南部奴隷州からの要望。
工業化と都市化が進展した北部では社会改革運動が始まる。奴隷制即時廃止運動、女性解放、刑務所や精神病院の改革、債務者の投獄禁止、決闘禁止など。

第11代ジェイムズ・K・ポーク大統領時代には、1845年にテキサス、46年オレゴン、48年にはアメリカ・メキシコ戦争とグアダルーペ・イダルゴ条約によってリオグランデ川がメキシコ・テキサス国境となる。カリフォルニアとニューメキシコを1500万ドルで割譲。(メキシコの領土縮小がはんぱない)

1849年以降はカリフォルニアでゴールドラッシュ開始。
国土が広がると自由州と奴隷州の力関係バランスが問題化。1854年カンザス・ネブラスカ法成立で、ミズーリ妥協を超えて奴隷州が広がる可能性がでてきた。

共和党リンカーン大統領が登場。南部奴隷州は連邦から離脱していく。1861年4月、チャールストン湾でサムター要塞へ南部連合軍が砲撃して南北戦争開始。これがアメリカ史上最大で最後の内戦。
北部が南部を人口・工業力で圧倒。だが専守防衛だけでいい南軍も善戦。苦境の北軍は国家が直接徴兵できる連邦徴兵法を制定。これがアメリカ史上最初の徴兵法。

北軍の目的は連邦の回復だったのだが、リンカーンの奴隷解放宣言が戦争の性格を変えた。「反乱諸州が期日までに連邦に復帰しなければ奴隷は自由!」
リンカーンは南部の奴隷制に手をつけるつもりもなかったし、人種の分離が人種問題をふせぐと考えていたし、黒人はアフリカに移民させるしかないと考えていたのだが。
北部では徴兵忌避運動が激化して暴動。とくに奴隷解放後に黒人と職を奪い合う関係のアイルランド系が暴動の主役。

いままで盲点だったけど、南北戦争の死者数がすさまじい。北軍36万4511人、南軍25万8000人が戦死。当時の合衆国青年人口の8%が死亡。そんなにも酷い内戦だったのか。

リンカーン暗殺後はアンドリュー・ジョンソンが大統領になるのだが、共和党急進派と衝突。北部にとって南部の再建が課題になる。
19世紀の黒人問題、婦人参政権、移民、そして労働運動(アメリカの労働運動は黒人中国人労働者とは連帯しなかったのか!)をささっとおさらい。そしてフロンティアの消滅。

先住民を虐殺掃討して囲い込む政策はそのままヒトラーのレーベンスラウム。アメリカの暗黒。アメリカの同化政策を見た日本政府はそれをアイヌにも適用。

アメリカは太平洋へ。米西戦争でキューバ、プエルトリコ、フィリピン、グアム、そしてハワイも手に入れていく。民主主義のアメリカが他民族を支配する帝国へと変貌。第3巻へとつづく。

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