2022年9月7日水曜日

篠田節子「Xωρα(ホーラ) -死都-」(2008)

篠田節子「Xωρα(ホーラ) -死都-」(2008 文芸春秋社)を読む。2006年にオール読物(2月から9月)に連載されたものの単行本化。

とくに読みたいという本でもなかったのだが、これも数年前に図書館で役目を終えた廃棄リサイクル無償配布本としてそこにあったので、いずれ読むかもしれないと持ち帰って積まれていた本。
自分はどちらかというと、読みたい作家の本を選んで読むというよりも、そこにある本を手当たりしだいに読むというスタイル。

篠田節子(1955-)という作家が世間的にどれぐらいの人気があるのかはまったくわからない。好きな作家として名前があがることはあまりない気がする。自分も今回この作家の本を初めて読む。東京学芸大卒業後に八王子市役所に勤務して作家になった人らしい。

オビに「妖しくも美しいゴシック・ホラー」と銘打ってある。30代初めに出会ってW不倫を継続し40代半ばに差し掛かった男女。女はヴァイオリニスト。男は建築家で遺跡保存の専門家大学講師。
終わりを意識し始めてヨーロッパを旅行。女はヘッド部に女性の顔が掘られたヴァイオリンを男からプレゼントされ困惑。

エーゲ海の小島に着く。老婆からいきなり「そのヴァイオリンは悪魔が憑いてるから燃やして棄てろ!」と言われる。
修道院に行こうと思ったら廃墟の教会に行き着き幻覚を見る。そこは島の人々から「ホーラ」と呼ばれる不吉な場所だった。
その直後に男はレンタカーで交通事故と体調不良。そして女は幻覚、幻聴、スティグマ。
ここまではたしかにゴシックホラーな展開だった。

男の容態が悪化して島の診療所からアテネに搬送しようにもエーゲ海が荒れていて船がでない。女は夫人ではない。飛行機の手配などで保険会社と電話。なんだかブラピ主演の「バベル」という映画を想い出す。
不倫という業からくる心理的圧迫。このへんは漱石の「道草」のようでもある。

さらに、島の人々からさまざまな島の来歴を聴く。ビザンツ帝国、ギリシア正教、オスマントルコ、ヴェネツィア、数多くの異邦人がやってきた街ホーラのこと。

悪魔?を具現したかのような男が幻覚として見えたりする。映像作品としてのホラーぽさもある。
しかし、読んでいてホラーだと感じない。中年にさしかかった女性の不倫と旅情と内面とギリシャ歴史ロマン文芸という感じだった。それほど評判を聞かない一冊ではあったのだが、自分としてはそれなりに楽しめた。

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