2022年9月8日木曜日

シリーズ深読み読書会「犬神家の一族」

シリーズ深読み読書会 横溝正史の大ベストセラー「犬神家の一族」(2016年11月18日にBSプレミアムで放送)が今年9月4日に再放送されてようやく見ることができた。じっくり見た。50分があっという間だった。

横溝正史作品で最も有名な「犬神家の一族」(1950)を、綾辻行人道尾秀介関川夏央橋本麻里(美術ライター)、そして音楽会屈指の横溝オタのシンガーソングライター安藤裕子の5人が深読み座談会。
関川氏と橋本氏は「中学生のとき読んだことある気がする」というほぼ初読。橋本氏は「近代の日本を書いた小説」だったと発見。
この番組、完全ネタバレを含むどっぷりディープ作品解説。おそらく映画も本も見ていることが前提。

横溝正史は戦争中作品の発表ができなかった。探偵小説は敵国文学だった。「鬼火」(1935)は発禁処分。それだけでもう戦争を激しく嫌悪する理由。
「私はどんな意味でも戦争協力を強いられるようなことがあった場合、一家五人無理心中をやってのけようと、毒物を用意していたような男だ。」というぐらいに戦争を憎む。
少年飛行兵になりたいと言った息子に激怒。「軍隊に入れないようにお前の指を切り落とす」という激しい気性の持ち主。若い頃から英米文学を読みふけっていた横溝はこの時代の人にしてはかなり進歩した人。

横溝はトリックをメインにストーリーを考える。だが「犬神家」はまずキャラクター設定から考えてストーリーを組み立てている。
それまでの金田一シリーズよりは見切り発車ならではのゆるさがある。そこがむしろ物語に奥行きを与えた。
さらに、戦後の財閥解体と民法改正という時代の変化も舞台設定に盛り込んだ。
原作では犬神家の相続権を示す「三種の神器」家宝「斧、琴、菊」は金メッキという設定?!そこには天皇制批判も秘められている?!仰々しさと空虚さ。

犬神家のモデルは長野県諏訪市の片倉財閥(製糸業)。横溝正史は戦前に結核療養のために家族で住んでいた思い出の地。

番組は片倉家5代目当主に「犬神家」を初めて読ませてみた。
当主「まさかウチのことが書かれてるとは思わなかった」「信州の生糸王と書いてある。そして二代目が佐一。そうなるとやっぱり片倉家。」「遺産相続争いも結構だけど、殺人が多すぎるんじゃねぇかと。ウチの先祖にはそういう人いないし。」「もうちょっとスマートに書いてくれたら」と驚きつつ不満げ。
5代目がわりとべらんめえ口調。今までまったく「犬神家」を読んだことがなかったことに驚いた。だが、上流階級エリートは大衆探偵小説なんぞ読まなかったのかもしれない。
市川崑の映画ではまったくスルーされているのだが、スケキヨが逆さになって湖に刺さってるその意味は、スケキヨ→ヨキケスという見立て。
ここ、自分はあんまり好きじゃないのだが、座談会参加の先生方がみんな褒めていた。綾辻「途中で思いついたんじゃないか」と。

「犬神家」の新鮮さは、殺人を犯す犯人と事後従犯が意思疎通してない別人だという事。殺人犯は突発的に後先考えずに殺してしまい、死体発見時に犬神家への恨みメッセージを込めたかのように死体に意味を持たせている。このことが女の単独犯行説を排除したりアリバイになってしまった。これは当時はまったく新しい要素。

高校生のとき読んだ自分としては、不思議な母の行動が納得いかなかった。無為無策だしアホすぎないか?母の子どもへの愛は盲目と言われても…。
え、ヨキケスの逆さ死体を考えたのは松子夫人だったのか?!

あと、復員してきたら静馬が自分に成りすまして実家に潜入してることを知ったからと言って、不審な動きをすれば目立つ状況で、佐清が静馬に適切なタイミングで接触できるかどうか。
美術ライターの橋本麻里氏は、「犬神家の一族」における野々宮大弐神官の妻晴代と犬神佐兵衛との不義密通で生まれた娘祝子の娘珠世という構図が、「源氏物語」における藤壺女御と光源の不義によって生まれた皇子という構図と同じであると指摘。この新説には座談会参加の先生方も感心。
「佐兵衛を光源氏に見立てると、祝福された愛情の通う存在には美しい輝きが与えられた表現が見られる。」その一方で呪わしい状況や人には輝きが与えられない。そこを横溝は明確に区別していた!
橋本麻里って調べてみたら高橋源一郎の娘なの?!

安藤裕子は犬神家の家系図と横溝家の家系図との共通点を指摘。実の母の顔を知らない横溝正史は母を思慕し、父を憎むオイディプスコンプレックスが作品に強く影響。母と子の愛情は絶対。

綾辻先生によれば「犬神家」は発表当時それほど評判がよくなかったらしい。
関川先生「犬神家を書いた直後から横溝正史は25年近く忘れられていた。映画化された1976年ごろになって、戦後戦前を見直す空気がようやくやってきた」
横溝は時代を先取りしてた。晩年になってようやく大ブームが来て本が売れたのはよかった。
佐清はひょっとして事件に関与(死体損壊と証拠隠滅、犯人隠避)したことで相続人の資格を失った?
でも珠世が莫大な財産を相続したのなら出所したときなんとかなるか。

野々宮珠世をやれそうな20代前半女優が思い浮かばない。強いて挙げるなら浜辺みなみしかいないかな。西野ななせでもなんとかいけそう。自分としては「ラストフレンズ」のころのまさみがベスト。(牧瀬里穂が珠世、西島秀俊が佐清をやった片岡鶴太郎版が見たいのだが、ぜんぜん再放送してくれない)

この番組を見た翌日、BOで角川文庫「犬神家の一族」を見つけて買ってきた。16歳ごろに読んで以来、ようやく読み返す。

今年の夏、市川崑「犬神家」で野々宮珠世を演じた島田陽子さんと、金田一耕助がはまり役だった古谷一行さんが相次いで亡くなったのは悲しかった。

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