2022年9月5日月曜日

柳原慧「いかさま師」(2005)

柳原慧「いかさま師」(2005 宝島社)を読む。帯に「第2回このミス大賞受賞作家による第2弾」だと書かれている。
別に読みたい本というわけではなかったのだが、こいつも図書館が廃棄するという古書を数年前にもらってきて積んでおいたもの。読み終わったらまたもとの場所に置いてきたい。

売れなかった画家が自宅で貧困と病苦にあえいで自殺。その30年後、ゴミ屋敷となった家から画家の妻が腐乱死体となって発見。べつに犯罪に巻き込まれたわけではない様子。

この本のヒロイン高林紗貴は老母を病院に見舞う。母の人生は不幸だった。不動産屋をやっていたのだが父に棄てられ逃げられた。母と娘だけで生き抜いた。
そんな生活をしていると家から遺言状らしい手紙を発見。鷲沢絖という画家の描いた絵画を母に譲りたいという内容。

この画家の父親がアイルランド人で明治時代の小説家。フランス各地で当時はまだ世間から忘れられた存在でしかなかったジョルジュ・ド・ラ・トゥール(1593-1652)の絵画を何点か収集し日本に持ち運んでいたらしい。

幼少時の記憶。そういえばあの家にロウソクの光に照らされる天使の絵画が飾ってあった。あれはラトゥールではなかったか?もしそうなら数億円はするかもしれない。だが、あの絵画は画家のアトリエに残されていなかった。

そして相続人ライバルの謎の若者が登場。母が病院でチューブを外され殺されそうになったところをこの若者に助けてもらった。部屋から慌てて出て行く太った不審な男を目撃したのだが、こいつはヒロイン(グラフィックデザイナーらしいのだが仕事してる場面は一切ない)のSNSに多くの足跡を残していたロリコン同人誌作家か?

正体不明な輩が次々登場。行旅死亡人の発見。そして不審な事件。恋人への疑惑。ラトゥールの絵画をめぐって、ヒロインも命を狙われる?
正体不明の何者かの主観も挿入。ややこしいだけで現在地を見失うようなミステリーなのかな?と思っていた。
だが意外に人間関係がわかりやすい。(登場人物の関係とだいたいの年齢は把握してる必要はある。)さくさく読める。

読んでる最中はごく普通の2時間ミステリードラマっぽくて退屈かも…と思っていた。だが、最終章で裏切られた。背後で同時進行していた裏面に十分に驚けた。幻の名画の相続権をめぐる騙し合いバトルの娯楽作サスペンス。十分推薦に値する。この本は手許に置いておこう。

オットー・ヴァッカーやファン・メーヘレンといった贋作事件の名前も登場。名画の贋作に使用される顔料の知識などを得ることができた。原田マハっぽさも感じる実在の巨匠の架空の名画ミステリー。そんなバカな?と思うこともあるのだが、そんなこともありそうだとも感じた。

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