2022年9月25日日曜日

ロート「ラデツキー行進曲」(1932)

ヨーゼフ・ロート「ラデツキー行進曲 RADETZKYMARSCH」(1932)を平田達治訳岩波文庫(2014)上下巻で読む。
ここのところ立て続けにドイツ史、イタリア史、ポーランド史、チェコ史に関する本を読み続けてきてオーストリア=ハンガリーについてもなんとなくわかってきた状態の今読もうと思った。

ヨーゼフ・ロート(Joseph Roth 1894-1939)はオーストリアハンガリー帝国東ガリツィア(現ウクライナ)生まれのユダヤ系オーストリア人ジャーナリスト。

ソルフェリーノの戦いで皇帝フランツ・ヨーゼフ1世の窮地を救ったことでスロヴェニアのトロッタ少尉は貴族に列せられ、以後はヨーゼフ・トロッタ・フォン・ジポーリエ男爵を名乗る。その息子フランツと孫カール・ヨーゼフ三代の消長、そしてハプスブルク帝国の黄昏と没落を描いた畢生の大作。
複合多民族国家オーストリアハンガリー帝国は第一次大戦で解体。最盛期に比べると国土も国力もだいぶ小さくなってしまった。帝国を愛したロートによる祖国への哀愁に満ちた葬送曲。

訳が新しいからなのか、とても平易でサクサク読めるのだが、クセも個性もない。登場人物たちの関係性と上下関係がまるでわからない。
何年か?国際情勢は?ロートはぜんぜんそのへんを書き込んでいない。当時の読者はそれでよかったのかもしれないが、現在日本の読者はずっとよくわからないまま。巻末解説だとロートは1880年から1914年までと語ったらしい。

オーストリアにおける他民族のこともよくわからないのだが、ユダヤ人軍医をめぐって侮辱(身内から呼ばれる場合はレーベンとつけるのだが異教徒からだと侮辱にあたる)の件で決闘事件も起こる。軍内部で決闘とか認めたら組織が立ち行かなくならないか?
あと、軍人の結婚には年俸の5倍から10倍の供託金が必要?そんなの賄えない。当時のオーストリア軍には年輩の独身将校が多かったらしい。
20世紀初頭までオーストリアではウクライナ人をルテニア人と呼んでいた?
いろいろと初めて知るオーストリアの常識と日常。

上巻はヨーゼフ・フランツくんの軍隊での日常と仲間のやりとりが無個性な文体で続いてる。曹長の妻とのドキドキラブとか、あとは酒、たばこ、父、そして老執事の死。それほど何か大きな事件とか起こらない。

下巻は、帝国の終りを断言する田舎貴族、フォン・タウスフィ夫人、賭博で身を持ち崩す友人、息子の窮地を皇帝に直訴する父、洟風邪のフランツ・ヨーゼフ1世皇帝、などなど、どのエピソードも断片的。大河ドラマ映画みたい。

ヨーゼフ・フランツくんの「もう軍を辞めたい」というメランコリーを経て、第21章になってやっと第一次大戦開始。なんとあっという間に狙撃されて死亡。部下のためにバケツで水を汲みに行ってコサック兵に頭部を撃たれて死亡。なんと切ない…。

この本、オーストリアの青年将校から見た第一次大戦を描いた小説ということで読んでみようかと思ったのだが、この本を読んだところでどうして大戦が起こったのか?戦況は?などはまったくわからない。
ただ、オーストリア=ハンガリー帝国の黄昏と哀悼を描いてる。この時代のオーストリア軍人に関心がある人にしかオススメしない。エピローグ部は味わい深い。

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