2022年7月24日日曜日

夏目漱石「虞美人草」(明治40年)

夏目漱石「虞美人草」を読む。東京帝大を辞して朝日新聞の社員として最初の新聞連載小説。明治40年(1907年)6月から10月まで約4か月127回連載されたもの。

初めて読む。どんな話なのかまったく知らない。虞美人の「虞」と言う字が書けない字。よくよく見て今回初めて覚えた。虞美人草とは雛罌粟(ひなげし)のこと。和名も難しくて書けない。
四面楚歌となった項羽が散る前に最後の杯を一緒にあげた人物が虞美人。中国史にまったく疎い自分はよく知らなかった。

漱石先生は40代で亡くなった英語の先生。なのにすらすらと吐く言葉がまさに漢語的名文美文調。読んでいてクラクラする。意味の分からない言葉と表現だらけ。固い。だが、男女の会話が多い。そこは助かる。

若い男が会話しながら京都比叡山の山頂を目指して歩いてる。長身で痩せた男は相当にへばってる。顔も体も四角い男は元気に無計画に歩く。ふたりともたぶんエリート。長身甲野が27歳。四角い宗近が28歳。
自分、京都は人生で3回ぐらいしか行ったことがなく、叡山というものがそこにあったはずなのに、まったく気に留めて見たことがない。なので何もイメージできない。大原女というのもまったくイメージできない。

藤尾(24歳なのにまだ未婚)と小野という秀才青年が、沙翁(シェイクスピア)の「安図尼(アントニー)とクレオパトラ」について会話してる。安図尼が羅馬(ローマ)でオクテビィアと結婚したことを使者がクレオパトラに伝える場面での嫉妬。事前に「アントニーとクレオパトラ」を読んでおいてよかった。じゃないと何の話をしているのかまるでわからない。「アントニーとクレオパトラ」で一番印象深かったちょっとユーモアシーン。

藤尾という女性が金時計をゆらゆらさせたりする。これは何?この女性は兄が家督と財産を放棄すると言うので、実質家長。若い男二人、小野と宗近を天秤にかけているらしい。金時計は藤尾を象徴。

漱石先生の新聞連載小説はもれなく読みにくい。明治の朝日新聞を読むような教養のある読者にはこれでいいのかもしれないが、現代人には埃をかぶった骨董品と感じられるかもしれない。ムダな教養をひけらかす装飾美文はカットしてほしいw これを高校生に読ませて国語力と読解力をテストするのは嫌がらせに等しい。

ひたすら高等遊民男たちとその周辺の「結婚どうするの?」という明治トレンディドラマ。男たちが煮え切らないもなにも、仕官するなり博士になるなり自立できなければ嫁をもらうどころではない。子の縁談で親の圧力がすごい。どうにもならない話がぐだぐだ続く。気が滅入る。

宗近くんはさすが外交官を志すだけあって、それが良いか悪いかは別にして、場をパキッと落ち着くところに落ち着かせる。漱石先生の創造した道義を示すヒーロー。
でも、藤尾さんは気の毒。なぜこの人だけ不幸にならないといけなかったのか?玉突き縁組パズルから外されただけで、なぜ死ななければならなかったのか。みんなもっと死を悼め。

読み始めたときは「これはちょっと…」と思ったのだが、読み終わった今となっては味わい深さを感じる。This is 明治!という小説。

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