2022年6月18日土曜日

夢野久作「瓶詰の地獄」(昭和3年)

夢野久作「瓶詰の地獄」を角川文庫(平成26年改版12版)で読む。7本の短編を収録。

自分、まだ一度も夢野久作(1889-1936)を読んだことがなかった。いつの時代の人かも知らなかった。江戸川乱歩よりも5歳年上。慶大文学部中退後、職を転々として作家へ。人間の心の暗い深淵も見てきた。そのへんの経歴も乱歩に似てる。では掲載順に読んでいく。

瓶詰の地獄(昭和3年)
わずか14ページ。ビール瓶に封蠟され漂着した3通の手紙が並べられているだけ。南の海の無人島に漂着した兄と妹が書いたものらしいのだが、これがあきらかに説明不足で読者を困惑させる。情報量が少なすぎる。どういう順番に書かれて海洋に投擲されたのかも不明。

第1の手紙(投身自殺するという遺書)の署名が「哀しき二人より」。第2の手紙(罪の告白懺悔)が「太郎記す」。第3の手紙が「市川太郎 イチカワアヤコ」の連名。しかも第3の手紙はカナ書きでわずか2行の救出を求める内容。

これは何度読み返しても答えは出ない。でもたぶん第3の手紙、第2の手紙、第1の手紙の順で書かれたというのが常識的解釈なのだが、それでも矛盾してる…。

人の顔(昭和3年)
孤児院から麹町の外洋航路の機関長夫婦にもらわれてきた、目の大きな変わった女の子の話。いろんなところに人の顔が見えて…。なんだかオチが落語っぽくもある。

死後の恋(昭和3年)
浦塩(ウラジオストク)で出会った初老の紳士から聴いた、革命後の白軍で知り合ったリヤトニコフという貴族の話。

支那米の袋(昭和4年)
浦塩のロシア女が語る恐怖の体験。アメリカ軍人にハワイへ連れて行くと騙され、袋に入れられ船に密航するのだが、殺されそうになって…。

金鎚(昭和4年)
父を破滅させ死に追いやった悪魔のような叔父を、必ず金鎚で頭をカチ割って殺してやらないといけない…という少年は相場師の叔父の仕事を手伝う。そして妾の伊奈子の手練手管。これは普通に大正文芸短編。

一足お先に(昭和6年)
肉腫で脚を切断した男。脚の神経が見る幻影。そして殺人。すべてを知ってる副院長との対決。そして…。

冗談に殺す(昭和6年)
動物を楽しそうに殺す狂った女優を殺した新聞記者の話。

以上の7短編を今回読んだのだが、どれもそれほど好きにもなれなかった。個人的には「一足お先に」が良かったように感じた。

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