三島由紀夫の十代から晩年までの短編12編を集めた「鍵のかかる部屋」を昭和55年新潮文庫版で読む。掲載順番に読んでいく。
- 彩絵硝子 だみえガラス(昭和23年)十代のころに書かれた初期作品。十代ならふつう、気になるヘンな同級生とかラブコメとか書きそうなものだが、三島の場合はいきなり軍を退役した老男爵夫妻と甥の心理劇のようなものを書いてしまう。「花ざかりの森」を読んだときと同じぐらい困惑。
- 祈りの日記(昭和19年)十代のころに書かれた初期作品。王朝絵巻のようなスタイルで書かれた少女の日記。やっぱり困惑しながら読んだ。太宰の「女生徒」のほうが面白い。
- 慈善(昭和24年)戦争から戻り大学に籍を置き保険会社外交員として働きバンドマンとして稼ぐ有能な水野。道徳心の欠落した不倫のゆくえ。これがアプレゲール青年というやつか。
- 訃音(昭和25年)三島の大蔵省時代の俗物上司たちがモデルか?パイプ1本なくしただけでずっと気になってしまって失態を見せる局長。そして妻の訃報。三島は役人たちに辟易してたことがわかる。役人が地方を視察して接待されて…正直読んでいて面白いわけでもない。
- 怪物(昭和25年)半身不随で喋れなくなった老子爵の酷い人間性。学習院にいた三島は華族たちも嫌いだったんだろうことがわかる短編。
- 果実(昭和25年)音楽学校に通う女子の同棲と同性愛の行く末。
- 死の島(昭和26年)函館の北に大沼という風光明媚な場所があることを自分は知らなかった。すかさず地図で調べてみた。紅葉の時期は美しいらしい。北海道駒ヶ岳も登ってみたい感じの山だった。
- 美神(昭和28年)古代彫刻の権威博士の最期とアフロディテ像
- 江口初女覚書(昭和31年)占領時代を派手に上手く立ち回った悪女の話。
- 鍵のかかる部屋(昭和29年)母と娘との鍵をかけた部屋での日々。財務省に入ったばかりの主人公がやたら暇。父のいない幼い娘の房子との関係。この主人公が9歳の女児の肉体について考えてる。時にはサディスティックな妄想。敗戦後の片山内閣から芦田内閣へという時代。世相と事件は具体的なのに、文中では大蔵省を財務省と記述。なんで?
- 山の魂(昭和30年)ダム建設の補償問題で奔走し財を成した男の半生。
- 蘭陵王(昭和44年)最後の短編。楯の会の戦闘訓練に参加していた学生Sの笛の音。
以上12編。どれもが日本語としてわかりづらく美しい。そして、読んでいて嫌な話ばかり。唯一の例外の「死の島」が好きな感じ。「美神」もオチが好きな感じ。
おそらく一番重要な作品は、三島の大蔵省官吏時代を垣間見れる「鍵のかかる部屋」。けど、自分にはあんまり響かなかった。
とくに他人にオススメできるような作品はこの短編集にはなかったかもしれない。
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