熊井啓監督のデビュー作「帝銀事件 死刑囚」(1964 日活)を見る。脚本も熊井啓。
「日本列島」を見てセミドキュメンタリーという形式に慣れてる状態で見る。「帝銀事件」については松本清張の「日本の黒い霧」と「小説帝銀事件」で読んで知ってる程度。
開始からニュース映画っぽい。ナレーションがかなり古くさい感じ。だからこそ当時の雰囲気がよく出てる。
映画に登場する事件の核心部分の名称は実名だが、会社名や新聞記者らの名前は仮名。
帝国銀行椎名町支店が今の銀行支店とイメージがまるで違う。ほぼ民家。田舎の郵便局のよう。
事件当日のその時、犯人が立て板に水のように滑らかに喋る。自分なら何かを飲まされるときはめちゃくちゃ相手を疑う。飲んだふりしかしない。全員で一斉に飲むとか、従順に育てられた時代の日本人ならではの惨事。
犠牲者たちが担ぎ込まれた聖母病院がカオスなぐらいに記者たちでごった返してる。記者の質問のしかたがものすごい勢いと剣幕。新聞記者たちがみんな品がなくほぼヤクザ。荒くれ男たち。マスゴミは昔からマスゴミだったのか。業界の伝統か。
新聞記者が変装して警察署の捜査本部会議に潜入?
登場人物たちがみんな喋り方がヘン。昔の役者たちは今とは違う質の演技をしてる。重大事件を捜査してるのにガハハと笑いすぎ。
車の後部座席に火鉢みたいなものを置いててびっくり。新聞記者たちが集まり会議をしてる広間で料理をつついたり、その場で着替えたり。
現代人が見ると演技も演出もヘンテコでいろいろツッコみまくり。
武井という記者がどこかで見たことがある…と思ってた。「獄門島」に鬼頭与三松役で出てた内藤武敏だ。
大野木役の俳優も見たことある。鈴木瑞穂という俳優だがなんと94歳の今も存命中?!
平沢貞通は信欣三。開始から50分を過ぎてやっと登場。容疑者が北海道から護送されている情報がどうして漏れる? これほど大騒ぎになる? 2万人以上の群衆が上野駅に詰めかけるだと? 混乱の極み。
真っ先に平沢の家に来た記者が、他紙の記者を欺くために表札を奪い偽表札を掲げるとか、とにかく昔の記者の職業倫理が酷い。殴り合いのケンカしすぎ。
大野木は警察に呼び出され731部隊調査から手を引くように圧力をかけられる。田島という米軍通訳がチョコプラの人そっくり。
「日本の黒い夏」と同じく、平沢が逮捕されると自宅を取り囲んで投石。正義を振りかざすこいつら何なんだ。
平沢も公判や取り調べで和歌を詠むとか何なの。こんなヘンテコな人だったのか。
供述で薬瓶を捨てた長崎神社のごみ溜めを掘り返す。昔の人は暇なのかすごい野次馬。この辺も今とはまるで違う。
この映画、帝銀事件について事前に知識がない視聴者は、見ていて意味がよくわからないだろうと思う。脚本が分かりずらい。
正直、あまり面白さは感じなかった。当時の雰囲気を感じ取る以上の意味はあまりない映画だった。もう熊井啓は見ないでいいかもしれない。
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