2022年6月16日木曜日

プーシキン「スペードのクイーン」(1833)

プーシキン(Александр Сергеевич Пушкин1799-1837)を初めて読む。望月哲男訳の光文社古典新訳文庫(2015)で読む。

「スペードの女王」というタイトルは横溝正史の長編作品にもある。だが自分がこれを読もうと思った理由はチャイコフスキーの同名オペラ。ストーリーを知っておきたいから。光文社版では「スペードのクイーン」という日本語タイトルになっている。

スペードのクイーン(Пиковая дама, 1833)
ロシアの冬は寒い。天気が悪いときは男たちはみんな誰かの家に集まって朝までカード賭博でもするしかない。近衛騎兵ナルーモフの家でいつものように仲間たちがトランプをしてる。もう夜明けが近い。ドイツ系工兵将校のゲルマンくんは慎重な性格で倹約。ただゲームを見てばかり。

仲間のトムスキーが80歳を超える祖母アンナ・フェドートヴナ伯爵未亡人の話を始める。夫人が若い頃にパリで賭博で多額の負債を抱えてしまった際に、かのサンジェルマン伯爵から三枚のカードを当てる秘儀を伝授され、負債を帳消しにしたエピソードに興味を持つ。
夫人はギャンブル狂の四人の息子たちには秘密を明かさなかったが、かのチャプリツキーには情けをかけて秘密を伝授すると、負債を取り返した上に儲けまで出たという。

ゲルマンくんは秘かに準備計画。夫人に近づき取り入り寵愛を受けてその秘法を伝授してもらおう。まず、夫人の養女リザヴェータに接近。恋文など書いたりする。だがリザヴェータは身持ちが固い。
しかしリザヴェータからの手紙によって、夫人不在時の屋敷内部の情報を得る。なんとか夫人の寝室に忍び込む。

寝室に男が侵入していることに驚く夫人。ゲルマンは懇願する。「あなたはもう残りの人生は少ない。どうかカード必勝法を教えて!」しかし夫人は無反応。こうなったらピストルで脅すしかない。だが、まだ何もしてないのに夫人はがっくりと後ろにのけぞって、そのまま死んでいた。

リザヴェータの寝室に来たゲルマンは夫人の死を知らせる。リザヴェータはゲルマンの目的が何であったのかを知る。そして秘密の通路を教えてゲルマンを帰す。

ゲルマンはカード必勝法を知ることはできなかった。夫人の葬儀に行き、現場で良心の呵責から卒倒してしまう。
その夜、夫人の霊が現れる。リザヴェータと結婚することを条件に、カードで勝つ必勝法を教えられる。「3、7、エース(トロイカ、セミョルカ、トゥース)と続けて張れば必ず勝てる」「だが、一昼夜に1回しか賭けてはいけない。生涯勝負事をしてはいけない」とくぎをさす。

有名ギャンブラーと対決。1日目は「3」、2日目は「7」で鮮やかに勝った。そして3日目「エース」で賭けたのだが、出た札は「スペードのクイーン」。なぜだ?
ゲルマンはクイーンが笑ったように見えた。「婆さんだ」と恐怖の叫び声をあげる。そしてゲルマンは精神病院に…。

という幻想的な短編。なるほど。これは読んでいて面白い話だった。読みやすいしわかりやすい文体。1時間ほどのドラマにできそうだ。

ベールキン物語(Повести покойного Ивана Петровича Белкина, 1831)
5作からなる短編集。故ベールキン氏の本が出版されるというてい。ベールキン氏の人となりなどを紹介する序文から始まる。
  1. 射弾 駐屯地で知り合ったシルヴィオという年配者から聞かされた決闘話と、その後にとある貴族から知らされたシルヴィオとの決闘とその顛末。
  2. 吹雪 ナポレオンとの戦争の始まる前年、美しい令嬢と貧しい下級士官の駆け落ちの失敗。そしてその後の運命のいたずら。
  3. 葬儀屋 新居に引っ越しした葬儀屋。近所に住むドイツ人靴屋のパーティーに招待されるのだが、職業を馬鹿にされたと憤りビールに酔って寝てしまう。そして、商人の後家が亡くなったという知らせで駆けつけて再び家に戻ると、そこには…。幻想怪奇短編。
  4. 駅長 自慢の娘を悪い軍人に騙され奪われた老駅長の哀れな話。
  5. 百姓令嬢 隣り合う仲の悪い領主。工場を経営したり堅実なベレストフ、英国かぶれでひょうきんなムーロムスキー。ベレストフの息子アレクセイ(背が高くハンサム)は軍人志望で文官勤めなどしたくないと考えてる。ムーロスキーの娘リザヴェータは百姓娘に変装してアレクセイをこっそりのぞきに行くのだが、犬に吠えられ見つかってしまう。そして身分を偽った恋の始まり…。
予想外にどの話も面白かった。印象に残ったものは…全部! 

「駅長」にはヒューマニズムを感じる。
「葬儀屋」の落語のようなオチに感心。
なにより、「百姓令嬢」がJKが読むマンガのようなラブコメコドラマで驚いた。これはもっと女子中高生に読まれるべき。ドラマ化してもいい。

あと、巻末解説を読んでプーシキンはフリーメーソンに入会してたことを知った。「葬儀屋」にもフリーメーソン式ノックというのも出てくる。
プーシキンが予想外に面白かったので、次は「大尉の娘」か「エウゲニー・オネーギン」を読みたい。

0 件のコメント:

コメントを投稿