2022年3月8日火曜日

江戸川乱歩「地獄の道化師」(昭和14年)

江戸川乱歩「地獄の道化師」を読む。これは初めて読む。光文社文庫「江戸川乱歩全集」第13巻(2005)の第2刷(2015)で読む。
「暗黒星」「地獄の道化師」「幽鬼の塔」「大金塊」という4本の長編を収録した、解説を含めると753ページにも及ぶ分厚い1冊。

もう乱歩の長編は何を読んでも同じ…という境地に達しているのだが、定価で1000円以上するキレイな状態の大ボリューム文庫本がそこに100円で売られていたので買わざるを得なかったw(それ、貧乏人の発想)
「暗黒星」と「幽鬼の塔」は近年読んだので今回はスルー。「地獄の道化師」から読んでいく。

「地獄の道化師」は月刊誌「富士」(大日本雄弁会講談社)昭和14年1月号から12月号まで連載。予告の段階ではタイトルが「爬虫類」だった。
光文社文庫全集では、雑誌連載時とほぼそのままの非凡閣版(昭和14年)を底本とし、春陽堂版と桃源社版を参照し現代仮名遣いに直したもの。
乱歩先生の時代は校訂をしっかりやってないらしく、相互に矛盾する箇所や誤植も多かった。それらすべても巻末に掲載。
さらに明治大正昭和期の東京府の実情なども詳しく解説。へえ、と思うことが多かった。

物語は豊島区I駅近く、省線環状線(山手線)の踏切で起こる。オープンカーが踏切で脱輪し運搬中の裸婦石膏像を線路に落とす。そこに列車がやってきて急停止。石膏像は破損したのだが砕けた箇所から赤いものが見える!?やはり中から顔を損壊した若い女の死体が…。

事件現場となった番小屋のある踏切が、どうやら現在の池袋PARCOのある場所らしい。今も西池袋から東池袋に自転車で行こうとすると苦労する。昔も混雑した場所だったようだ。
池袋PARCOのあたりは江戸時代は辻斬りが出るほど暗い森の中の道だったらしい。

車の持ち主を調べて彫刻家の男が浮上。アトリエのあばら家はもぬけの殻。夜間戻ってくるはずと考えた若い刑事が夜間に侵入。鎧櫃(?)の中に隠れて待つ。すると骸骨のような顔をした男が返ってくる。隠れていることを気づかれた刑事は閉じ込められ釘で釘で閉じ込められる。やがて骸骨男は眠ってしまった?

そして火事!刑事は火事場のクソ力で脱出。眠っていた男は縛られている?刑事は男を抱えて脱出。
このくだり、読者をハラハラさせて物語に引き付けるうえでは必要だったかもしれないが、全体としてはあまり必要を感じないw

そして、姉が3日前に家を出たきり戻らないという妹が警察へ。身元が判明したのだが、この姉妹の周辺には不気味な道化師が出没し、脅迫状のようなものまで。
姉の元婚約者ピアニストが友人のつてで明智探偵に依頼。その間に妹も偽手紙におびき出され失踪。さらにピアニストが現在交際する声楽家女性にも魔の手が?!

小林少年の尾行でアッサリと犯人のアジトが分かってしまうのに笑った。このあばら家で瀕死の女を救出。顔や手が劇薬で見るも無残な状態になってる。
明智の弟子になった容疑者にされた彫刻家が千葉の寺で墓を掘り恐ろしい発見をする!

これ、他の乱歩長編に比べてマシな面白さがある。無駄な大捕り物シーンとかカーチェイスとか一切ない。適度な長さで飽きない。古典的な入れ替わりとなりすましサスペンス。
だがやっぱり納得いかない箇所もある。そんな展開になる?って疑問。巻末解説でも指摘してるように、毒物をいつどこで手に入れた?犯行を手伝った男たちはどこへ行った?などなど。

カンのいい読者なら真ん中あたりでだいたいの構図と真相がわかってしまう。動機は現代にも通ずるものがある。
「地獄の道化師」は乱歩の代表作と言っていいかもしれないが、やはりそれほど満足感もない。そして乱歩先生は戦局の悪化のせいで自由に書けなくなっていく……。

続いて「大金塊」を読む。月刊少年誌「少年倶楽部」(大日本雄弁会講談社)昭和14年1月から翌年2月に連載。少年探偵団シリーズの第4作。初めて怪人二十面相が登場しない回。
講談社版(昭和15年)を底本として現代仮名遣いに改めたもの。
この文庫本に収録されている4作品は連載時期が重なってる。乱歩先生は頑張った。

冒頭の書き出しからもう子供に語りかけるような文体。主人公宮瀬不二夫くんは小学6年生。おうちは大豪邸西洋館。母は4年前に亡くなり、父と子の一家。女中と書生たちが一緒に暮らす。

ある夜、父は仕事で留守。ひとりで寝ないといけない。怖いな…と寝ていると突然メモ書きを見つける。動くなという脅迫。そして、隣の客間がガサゴソ騒々しい。泥棒?そしてカーテンから銃口。
翌朝、書生が起こしにくるので一緒に調べると銃口は紐で吊るしてるだけ。客間はいつも通り。そして父が帰る。父には盗まれたものの心当たりがありそうだ。そして明智探偵に連絡。

どうやら盗まれたものは明治維新を生き抜いた商人の祖父がため込んだ大判小判の財宝のありかを示す暗号の一部。「獅子が烏帽子をかぶるとき 烏のあたまの…」
そして、犯人から電話。暗号の片方だけ持っていてもしょうがないんだから、もう片方を売れ!だが断る。

小林くん登場。不二夫と入れ替わって宮瀬邸で過ごしていると、賊の罠に落ちて賊のアジトに捕らえられる。
賊たちが寝静まってから部屋を脱出。賊リーダーの正体を見抜き、奪われた暗号紙片を奪い返す。
そして無人島の洞窟を探検。道に迷い、海水が押し寄せる…というお約束の展開。

賊に奪われそうになった千両箱を無事に取り戻してめでたしめでたし。だが、時局は戦時中。その金塊はすべて大蔵省が買い取り?!

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