2022年1月13日木曜日

横溝正史「白と黒」(昭和40年)

横溝正史「白と黒」を読む。これは5年前に、そこに100円で売られていたので確保して積んでおいたもの。
1960年から61年にかけて新聞各紙に連載され、1965年に東都書房から傑作選集が出た時に改稿され、1974年には角川文庫化。
自分が手に入れたものは平成14年改版12刷「金田一耕助ファイル18」。(この版は巻末解説がまったくなくて困る)

昭和35年、小田急沿線のK台地に住んでいる詩人のS・Y先生は3か月ぶりに犬の散歩。そこに突然団地ができてて驚き戸惑う。犬が吠える先に双眼鏡で団地の方向を観察する男…。
川崎球場で大洋-毎日の日本シリーズ第1戦が始まるというその日。急速に宅地開発が進む高度経済成長の東京近郊での風景。

この小説の舞台は、世田谷区大蔵団地がモデルになっているらしい。
横溝先生の自宅が成城にあり、近所の映画撮影スタジオ(東宝砧スタジオ)の向こう側に見える団地ということから推測できるらしい。

金田一さんは馴染みのホステスと日の出団地を歩いている。なにやらこの団地では怪文書が出回ってるらしい。
この時代の人の秋の普段着はセーター。(市川崑「東京オリンピック」を見ると、マラソンを見物する沿道の若者はたいていセーターにズボン。)

そしてゴミ置き場で女性の死体が発見。工事中の屋上からダストシュートを経由して流れ落ちた熱せられたタールで顔面が損傷。この婦人は団地の一隅で洋裁店を営む美人マダム。
このマダムが出自も身元も不明?名前も本名じゃないし、写真すらも1枚もない謎の女。

これ、552ページ長編でかなりの力作。開始早々はすぐに死体発見でつかみは強いのだが、たちまち退屈。団地のごく限られた世帯のみの内輪の関係に終始。真ん中3分の1は、それ本当に必要?というパート。まるでライツヴィルのエラリー。

いろんな人が登場する。あまりに人が多い。ぐだぐだどうでもいい会話がひたすら続く。ページを開くたびに眠くなる。まるで社会派推理小説。
後半になってやっと、婦人が殺害されたころに行方不明になった元ホステスの夫の死体が沼から引きあげられる。ようやく横溝らしくなってきた。

これ、昭和30年代横溝の中でもかなりゲスイ内容。団地内怪文書が「処〇膜を調べろ」とか書いてある。声に出して読めないしろもの。セッ〇スで得られる満足度とかについて、いい大人が話し合う。同性愛が異常性愛者という前提の時代を舞台にしたどす黒い闇。

結果、殺人を犯してる者、後始末をしてる者、怪文書を書いて事件を誘発してしまった者、さらに怪文書を真似た者たち入り乱れてややこしい。偶然に絡み合った糸と宿命が最後に明かされる。
ラストは予想がつかない展開ではあった。ホラー小説っぽい。目撃者の少女たちが殺されて行く…。
あまり有名になってない長編なので薄々覚悟はしていたのだが、正直それほど好きになれない金田一長編だった。

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