2022年1月20日木曜日

羊の木(2018)

吉田大八監督の「羊の木」(2018 アスミックエース)を見る。原作は山上たつひこといがらしみきおによる青年コミックス誌マンガ。脚本は香川まさひと。タイトルからもビジュアルからもどんな内容なのかまるで想像つかない。まっさらな状態で見る。正直、木村文乃が出てるので見る。

富山県にあるという架空の港まち魚深市が舞台。主人公の市役所に勤める錦戸亮はいつものように上司から「受け入れ」の担当仕事を任される。だが今回は6名。いつもよりも多い。

新幹線の改札口で「ようこそ」と印刷されたコピー用紙を持って立ってると、目の鋭いスーツ姿の男ふたりに連れられ、ちょっとヘンな男(水澤紳吾)がやってくる。
車を運転しながら「どちらから?」と差しさわりのない質問をするのだが、どうも答えたくないようだ。街の食堂に連れて行って昼飯なのだが、がっつき方がすごい。

次に空港で優香にパフェを食べさせているのだが、この女性も自分の着てる服の臭いを気にするなど、やっぱりちょっとおかしい。
おみやげ店で白Tシャツを買って着てみると、ぱつんぱつんで胸がどばーんと前に飛び出てる。錦戸は気にしないふうを装う。

次に駅で受け入れ者を待ってると、やっぱりスーツ姿の女性ふたりに挟み込まれたように市川実日子がやってくる。新居に届ける。みんなどこか暗くて無口でコミュ障。
次の受け入れは刑務所の塀のドア前。顔に傷のある老人(田中泯)が出てくる。すぐに見るからにカタギじゃないやつらの車が横付け。

さすがに錦戸は全員刑務所帰りなことに気づく。「事前に教えてください!」
上司「先入観なしに接してほしかった」福祉課の職員にヤクザ対応とかできるのか。
仮釈放された元受刑者を地方都市に移住させる国の極秘更生プロジェクトだと?地方自治体が身元を保証され受け入れれば過疎対策にもなる?
「アパートの大家とか仕事先の人は知ってるの?」「なんで教える必要が?個人情報だろ?」
「何をやった人たち?」との質問にも、ポンと肩に手を置かれて「未来にも目を向けたほうがいいんじゃないか?」
ちょっと待て。なんでそんな計画が国民に知らされないまま進行してる?

北村一輝(チンピラジャージ)は他の元受刑者と違って無口じゃない。ちょっとナメた態度で錦戸に接してくる。軽い。「こんな田舎で10年も我慢できるかなあ」
そしてトレーナー姿の松田龍平(不気味)も自分から「いいところですね」と話しかけてくる。こいつは自分がどうして人を殺したかも自分から話してくる。

そんな6人の元受刑者を淡々とメリハリ無く描く。
千葉から富山に戻ってきた木村文乃(主人公の同級生でバンド仲間、ギタリスト)の初登場からのどこか投げやり不愛想な雰囲気がいい。
田舎に残った者たちは外に出てった者について勝手な推測で噂話。バンド仲間の松尾諭がまったくデリカシーのない話をしてきて文乃をイラつかせる。「オマエ、おっさんだな」「そうだよ。田舎じゃ1年で2歳年をとる」

文乃のバンドが3ピースシューゲイザーw 文乃のギター演奏シーンがすごくイイ感じ。

この映画、日本の地方都市の田舎を淡々と酷い場所だと描いてる。街はシャッターが閉まった店だらけ。夜は真っ暗。市役所の同僚ですら噂話に詳しく口が軽い。「のろろ」とかいう奇祭まである。

そんな町で6人を受け入れたとたん、町で何年も起こったことのない殺人事件発生?そういうサスペンス映画?と思いきや、港で見つかった死体は解剖の結果ただの脳梗塞?

一介の市役所福祉課職員にすぎない錦戸が、上司の命令通りに仕事をしてるだけ。錦戸は何ら悩んだりする必要はない。6人が接点を持つ心配をする必要もない。その結果がどうであれ責任はすべて上司と市長が負うべき。
情報が洩れようが我関せずでいい。仕事してるフリだけでいい。何か起こっても、それは自分の責任じゃないと言えばいい。
え、理容師免許って刑務所で取る人も多いの?それは誤解をまねく知りたくない情報だ。
主人公の父に妖艶にせまってくる優香の色気がすごいw 介護老人とアツアツ。こういうの恋愛体質で済まされるのか?
松田龍平がほぼ「散歩する侵略者」の松田龍平。こいつと文乃がいつのまにかデキてるとか微妙に嫌。
酒乱で人を殺した男に「祭だから1杯だけ」とか言って飲ますな!その結果がまるでコントのようで軽い。

ビジュアルのデザインがよくない。サスペンススリラーかと思って見てしまった人はひたすら困惑でイライラしてしまっただろうと思う。サイコパスは刑期を終えてもサイコパスというホラー人間ドラマだった。こんなヤツを野に放ったとしたらそれは司法の敗北。
何か最悪な事態が起こりそうな嫌な雰囲気がずっと続く。市役所錦戸がひたすらピュアでいい人でどうしようもない。そしてバッドエンド。嫌な気分。

不穏に田舎あるあるを描いた映画。いったい何だってこんな映画を作ろうと思ったのか?

0 件のコメント:

コメントを投稿