2022年1月21日金曜日

カミュ「ペスト」(1947)

2021年4月に岩波文庫から出た三野博司新訳のアルベール・カミュ「ペスト」を読む。初めて読む。コロナ禍で読む人が増えた本。
表紙絵はジュール=エリー・ドローネー(Jules-Élie Delaunay 1828-1891)「ローマのペスト」(1869)。
Albert Camus LA PESTE 1947
194X年、アルジェリア・オランでペストが発生…という設定。ということは出版当時は数年後の近未来を描いた小説か。
読む前はなんとなくおとぎ話的空想SFみたいなものを想像していたのだが、ペストという致死率の高い疫病パンデミックを描いた小説としてリアルを感じた。
町がロックダウンされたとき起こること、人々の心の起こる変化、などを的確に描いているように感じた。今の世界を予言していたようにも感じた。

町のいたるところで鼠の死骸が大量に見つかるようになる。そして少しずつ、リンパが腫れ鼠径部が腫れ、高熱を出して死んでいく人が現れ始める。医師リユーはあきらかに腺ペストだと気づく。だが当局はなかなかその言葉を使用しない。

やがて毎日大量の死者が出る。ロックダウン。オラン市は外部とまったく行き来できなくなる。新聞記者ランベールはなんとか街を脱出しようとするのだができない。イエズス会のパヌルー神父は「ペストは我々の罪への罰」と説く。絶望的状況でリユーはただ自分の仕事に精を出す。

やがて人々は疲弊。リウー医師も疲労困憊。
以前に首を縊ろうとしたコタールはイキイキしてる。成り行きに身を任せる気楽さ。

罪なき少年も断末魔の苦しみの末に死んでいく。
パヌルー神父「怒りを覚えるのはわたしたちの理解を超えるから。理解できないことを愛さねばならない」
リユー「子どもたちが拷問にあうようなこの世界を愛することは死ぬまで拒む」

そうこうしてるうちに肺ペスト兆候の老人が翌朝になると体調復帰。そんな例が他にも現れ始める。街には鼠の姿が見られるようになる。ひょっとしてペストの後退期?突然、猖獗をきわめたペストの日々が終わる。春に始まって冬に終わる。(コロナはそうじゃないが)

この小説、まるで映画のようで面白い。古さを感じない。過去に何度もあったペストの流行がどのようなものであったかを思い描かせてくれるし、ペストとの戦いを対ナチスドイツレジスタンスのように描いてる。
街がペストから開放されたとき、敵の協力者(コタール)は気が狂って銃を乱射。「ずっとペストが続いてくれたら良かったのに…。」パリ解放のときにも見られた風景。

訳者によれば、この岩波文庫版の出版がコロナパンデミック期と重なったのはまったくの偶然で、数年前から準備していたとのこと。(訳注と解説がとても充実。オラン市の地図つき。)

コロナになって以降、ちょっと外出しただけなのに、都会でも田舎でも周囲と騒動を起こすヘンな人(ありていに言えばキチ〇イ)を目にすることが増えた気がする。そのことを友人に聞いてみたら「目立たないものが見えるようになっただけ」と訳知り顔に話してた。まだまだなるべく外出せずにやっていく。

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