2022年1月26日水曜日

筒井康隆「ロートレック荘事件」(1990)

筒井康隆「ロートレック荘事件」(1990)を平成7年新潮文庫版で読む。たぶんジャンル的に推理小説?何の予備知識もないままサクサク読んでいく。

主人公の浜口重樹は8歳のとき滑り台からの転落事故で背骨を強打。以後、下半身の成長が止まる。だが画家として成功。(世紀末パリで活躍した画家ロートレックも極度の低身長だった)

企業人木内氏の招待で懐かしいロートレック荘(重樹の父が手放した瀟洒な別荘)へ行く。たぶん軽井沢がモデルとなってる架空の避暑地。忠明の運転するクルマで。
忠明は重樹の転落事故の要因となって以後、生涯の友人として重樹をサポート。文化人類学の助教授。ふたりとも28歳。

木内氏はロートレックのコレクター。その娘典子は24歳でお年頃。その同級生牧野寛子と立原絵里も来てる。
木内氏の秘書錏(しころ)も呼ばれてないのに社長決裁が必要と押しかけてくる。この男が学歴もあり高身長で有能だと自分で信じてる男。他人を馬鹿にしたような感じで木内家に集まった人々から心の中で「早く帰れ」と思われてる。やがて空気を読んで帰るのだが東京行き終電を逃す。

お淑やかで大人しい寛子(サラリーマンの娘で資産はない)と重樹は秘かに相思相愛。立原はその母(未亡人)と一緒。絵里は明るいけど空気の読めないギャル。
集まったその夜に重樹はバルコニーから寛子の部屋へ。そして破瓜。(客として来てる家で?)

喉が渇いた…と重樹は階下へ。他人の家の冷蔵庫を物色するのは気が引けるが、ロス支店と電話やり取りで起きてた主人の木内氏も階下に居るようなので一緒に何か飲もう。
するとそのとき2階から銃声。牧野寛子が銃で殺されてる!?

さらに第2、第3の殺人。警察が取り調べしてる最中にも?これはもう内部の犯行としか思われない。そして渡辺警部は犯人が誰であるか気づく。

以下ネタバレを含む。まだ「ロートレック荘事件」を読んでない人はここでストップ!

これ、何をどう語ってもネタバレになってしまう。この本を読む人は極力他人の評価や情報を目にしてはいけない。まっさらな心で、表現の違和感などに拘泥しないでさらさら読み進めた方が驚けるし幸せ。自分はそうした。

第16章のある行のある一文字を目にしたとき、「?!」って衝撃を受けた。
これって、ジャンル的に叙述ミステリーだったのか?!この手のジャンルを今まで多く読んできたのに、それがまったく予測できてなくて(あえてそうしてたのかもだが)びっくり仰天した。せいぜい二重人格ぐらいのオチを考えていた。

今まで脳内でイメージしてきた映像と、上記した説明は「誤読」そのものだった!w 1回目の読書と2回目では頭に描いてるイメージがまるで違う。

犯人の独白は、読者の誤読箇所のおさらい解説!w
この犯人の造形と動機は江戸川乱歩っぽい。ゾワゾワする。
障がい者への偏見を助長するとか、食事やお茶の支度をするのが女性ばかりとか、そんな指摘をする人もいる。だが、一時代も二時代も前の昭和ミステリーばかり読んでる自分には、そいういうものとして読めた。楽しめた。
最初からある程度違和感があった。この手のジャンルに慣れ切ったスレた読者なら「クルマの箇所でオレは気づいた」とか自慢するだろうけど。

道尾秀介「向日葵の咲かない夏」(1995)、綾辻行人「十角館の殺人」(1987)を初めて読んだときに匹敵する衝撃だった。
1990年に刊行された本だけど、なんで今まで手にとらなかった?今までSF作家の巨匠の書いた推理小説だから…と食指が動かなかった。さすがだ。さすが筒井康隆だ。

映像化は絶対不可能!ということだが、ここ数年BSプレミアムでやってる横溝や乱歩の短編作品を30分でやるシリーズならできなくもないと感じた。一部を活字ナレーションにして、カメラのアングルを工夫すれば可能かもしれない。真犯人に一堂の視線が注がれる瞬間に、気持ちよくカメラが引き絵になるだろうと思う。

その存在にまったく触れないで物事を活字にするとこうなる。
2007年に「くりぃむナントカ」でやってた「芸能界ビンカン選手権」における国生さゆりを思い出した。

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