2021年11月24日水曜日

遠藤周作「白い人・黄色い人」(昭和30年)

遠藤周作「白い人・黄色い人」(新潮文庫)を読む。フランス留学生だった遠藤周作の初期作品。芥川賞受賞作の「白い人」と、「黄色い人」の2作品。昔からこの2作はセットで一冊。

「白い人」
醜悪な容姿に生れたリヨンの法科大学生が主人公。砲声とどろく一室で手記を書いている。

幼少時に女中が弾力のある腿を露出させながら老犬を打つ姿を目撃。商用で父とアデン旅行。目もくらむような暑い街の迷路で、半裸の少女が痩せた少年の湾曲し反り返ったカラダに乗る曲芸が残酷なものに見えて興奮。幼少時からサディズム的性向のめざめ。
登場人物たちがフランス人とナチ将校なので外国文学を読んでる気分。

この本の書き出しは
1942年、1月28日、この記録をしたためておく。連合軍はすでにヴァランスに迫っているから、早くて明日か明後日にはリヨン市に到着するだろう。敗北がもう決定的であることは、ナチ自身が一番よく知っている。
となっている。ドイツ軍はローヌ河橋梁を爆破して敗走?リヨン市民は逃げ遅れたドイツ人とその協力者に牙をむく。
ここを読んで混乱した。おそらく日付が正しいならば当時のリヨンはヴィシー政権下。連合国のノルマンディー上陸作戦が1944年6月。パリ解放が8月。遠藤周作は一体何を書いている?レジスタンスの戦闘?たぶんクラウス・バルビーがリヨンを取り仕切ってた時代だが、登場する人物名などは架空。

母がドイツ人だった主人公はゲシュタポで働く。対独レジスタンス分子を拷問。やがてリヨン大学で知り合った神学生ジャックを拷問することに…。
ナチスが出てくる映画や文学は人間の極限。カトリックの正義とナチという悪。遠藤周作は最初からこんなにも重い小説を書いていた。

「黄色い人」
空襲と食糧難の川西市に残ったフランス人神父と、不倫の罪を犯し教会を追放されたデュランは信徒から蔑みの目。そして特高警察や憲兵につけ狙われている。さらに肺病病みの医学部生が登場して戦争の切迫感。キリスト教の神、そして問答。こちらも短編ながら力作。
戦争中の在日外国人も豊臣時代みたいに酷い目に遭ってた。襲来してきたグラマン機は一般市民を動物を狩るかのように楽しそうに撃ってた点で罪深い。

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