原田マハ「楽園のカンヴァス」(2012 新潮社)を読む。原田マハ(1962-)を初めて読む。このパリ在住作家は元美術館勤務で商社勤務という経歴。そしてこの本の主人公のひとり早川織絵もソルボンヌで美術史を専攻し、事故死した父が大手商社のパリ支社長という設定。
アンリ・ルソー(1844-1910)という画家について自分はあまり詳しくないけど、昔バックパッカーしたとき「戦争」という絵をオルセーで見たことがある。中学高校のころから美術教科書で何枚も絵を見て来た。
この本ではニューヨークMoMA所蔵の「夢」とほぼ同じ「夢を見た」という大きな絵画をめぐる謎を扱う。
2000年倉敷、主人公の早川織絵は大原美術館で監視員を仕事にしている。いつものように画を眺め館内を歩き、高校生の団体を注意したりしてると学芸部から呼び出し。やり手館長と大物美術史家、そして新聞記者。
日本でルソー展を開くのにMoMAの「夢」を借りたいのだが、相手側が早川織絵を名指しで指名してきた!?
織絵が実はかつて、フランス語を自由に操り論文を発表していた日本におけるルソー研究の第一人者だった。
そして1983年ニューヨーク近代美術館。アシスタントキュレーターのティム・ブラウンはバカンス期間前の最後の仕事に忙殺。そこに秘宝コレクションを所蔵してると噂の有名コレクターのコンラート・バイラ―氏から招待の手紙を受け取る。
おそらく上司の花形キュレーターであるトム・ブラウンと間違えたんだろうけど、間違えた方が悪いんだからとJFK空港からチューリヒへ飛び、そこからさらにバーゼルへ。
厳重なチェックを経てバイラー氏の邸宅へ。カタログで見たこともない個人秘蔵の絵画が多く飾られた部屋でバイラ―老人と握手。
そこにハヤカワオリエという日本人女性研究者。ハヤカワは「ルソーは正式な美術教育を受けていないことは確かだが、その技法は確信犯的に選択されたものだ」という新説を提示していた。ハヤカワとブラウンはアンリ・ルソーの研究者として呼ばれた。
で、「夢を見た」がルソーの描いた絵なのかどうか?真贋を調べてもらいたいという依頼。
ハヤカワとブラウンはひとりずつ謎の本を読まされる。
これが1906年から1910年まで、貧乏老人画家と同じアパートメントに住む若い主婦ヤドヴィガとの出会い、ピカソ、アポリネール、洗濯船(バトー・ラヴォワール)での夜会、そして画家の死まで……。これは創作小説?それとも新事実?
1日1章ずつ読んで、7日目に真贋の結論を講釈してバイラ―氏が勝者と認めたほうに絵画の権利を譲るという。
史実にフィクションを交えた美術界のプレーヤーたちの思惑が渦巻く世界を描いた一部ミステリーのドラマ。
美術知識満載で知的。文体もわりと自分と合っている。映画のように生き生きと場面が想像できる。わりと面白かった。あっという間に読んでしまった。
1983年当時は、まだアンリ・ルソーは元税官吏の日曜画家という評価以上のものはなかったってまじ?
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