佐藤春夫(1892-1964)の「美しき町・西班牙犬の家」を岩波文庫版(1992)で読む。
西班牙犬の家(大正6年)
読み方すらわからなかったが、「西班牙」と書いて「スペイン」と読む。「田園の憂鬱」にも登場した飼い犬フラテと散歩してる主人公。雑木林の中に西洋館を発見。薔薇の花が咲き水が流れる。知らない人の家なのにずんずん入っていってみる。呼びかけてみるも人がいない。ドアを開けてみたらそこに老犬。
なんで今までまったく読んでなかったんだろうと思った名作短編。ぽかぽか陽気の午後の楽しい空想。
美しい町(大正8年)
画家が作家に語った話。画家の友人の旧い友人(資産家)が100軒の家を建てて、条件に合う人々を住まわせる計画。資産家、画家、老建築家が3人集まって計画を練る話。
こういうの、昔から現在にいたるまで普通にある住宅地開発計画。
星(大正10年)
星に「この世で一番の美人と結婚させてください。息子をこの世で一番えらくしてください。」という、共感を得ずらい願い事をした男の話。中国の故事?かと思って読んでいた。明朝から清朝にかけての官僚洪承疇(1593-1665)とその両親の話だった。
陳述(昭和4年)
ほぼ「白い巨塔」。医局内で偏屈扱いされ嫌味を言われ、嫌がらせを受けてると被害妄想で錯乱し、婦長を刺した医者の供述独白。
李鴻章(大正15年)
日清戦争の講和条約で西太后から不興を買った李鴻章は隠居生活から再び北京へ呼び戻される。日本人外交官たちの見聞きした李鴻章。
月下の再会(昭和9年)
日本語のできない外国人婦人が「ムカイさん」を探す。そしてそれを手伝う男。
F・O・U(大正15年)
頭のおかしい日本人青年 in フランス。
山妖海異(昭和31年)
新宮に生れた春夫による「遠野物語」ふうな新宮と熊野の民俗学。
以上8篇、どれも驚くほど作風が違う。「美しい町」も人気らしいが、自分としては「西班牙犬の家」が特別な短篇。
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