2021年4月19日月曜日

鮎川哲也「りら荘事件」(1958)

鮎川哲也「りら荘事件」を講談社文庫版(1992)で読む。巻末解説によると昭和28年に同人誌で原型が発表され、昭和31年ごろに連載開始され、昭和43年に大幅改定された推理小説。今まで各出版社からいろんな判違いが出てる有名作らしいのだが、自分は今までまったく存在を知らなかった。

東京の芸大生たちが秩父の「りら荘」へ夏合宿に行き連続殺人事件に遭遇する。後の綾辻行人や有栖川有栖といった新本格で見るような雰囲気。たぶん先駆け。

だが、このりら荘がクローズドサークルじゃない。それに、秩父の影森がすごい田舎のように感じる。
操作する刑事が東京に聞き込みに出かけるのだが、暑い東京から涼しい秩父に戻りたいと言ってるのが現代の感覚と違うように感じた。今は埼玉は東京よりもむしろ暑いイメージ。この当時は道路もアスファルトじゃなくて山と川がある秩父は涼しかったんだろうか。

時代の先端を行く若者たちの会話がいちばん古臭く感じる。言葉遣いも。
高度経済成長時代のニュース映像とか見てると、当時の若者の喋り方は今の老人の喋り方だと気づく。この本の若者たちの会話は今の老人たちの会話にも聴こえる。なぜなら今の大学生みたいにアニメや漫画やアイドルの話題なんてしないのだから。

学生たちの連続殺人かと思いきや、いきなり発見される死体が学生じゃない。なんと「炭焼き」。今の若者はかつてそんな職業の人が田舎にはいたことを知らないんじゃないか?

そもそも学生たちが次々と殺され、しかもその中に犯人がいるかもしれないって、よほど各キャラクターの描き分けができていないと読んでいてつらい。この学生たちは戦後になって音大と美大が合併した設定で、クラシック音楽家の卵と画家の卵となっている。それならなんとか各キャラのイメージがつかみやすい。

殺人現場にはトランプのカードが置かれている。このトランプカードにも後々重大な意味がある。
挑戦的な犯人だが、炭焼き人や住み込み家政婦まで殺してる?ということは学生たちの過去の所業に対する逆恨みが動機じゃないってこと?
埼玉県警の刑事は論理思考で容疑者を絞って逮捕状。アリバイがないとかそんなことだけで?この当時はそんなことで逮捕されんの?たまったもんじゃない。

後半になるとパリ帰り男が登場する。こいつが鼻持ちならないキザなやつ。何も予備知識がなく読んでるとこいつが探偵役かと思ってしまう。だが違ってた。とても頭がよく、事件の真相をほぼほぼ見抜いてるのだが、刑事たちに真相を話す前に殺されてしまう。(てか、なんでこいつをヒーロー探偵にしなかった?)

終盤になって検事のコネで今度こそ本物の素人名探偵が登場。(なんで2人目の名探偵を登場させた?)
この本に出てくる警部はまったく無能。りら荘にいるのに殺人防御率が悪すぎる。隙だらけのロジックは使わない方がマシ。

本格が流行らない時代に書かれた本格。とても精巧に入り組んだ作りの大力作ではあったのだが、やはり自分の趣味とは合っていなかった。リアルを感じられない。もう自分にはクリスティーがあれば十分な気がしてる。

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