2021年2月14日日曜日

F.W.クロフツ「クロイドン発12時30分」(1934)

F.W.クロフツ「クロイドン発12時30分」を霜島義明訳2019年創元推理文庫で読む。
THE 12:30 FROM CROYDON by Freeman Wills Crofts 1934
「母さんがパリで交通事故に遭った」と10歳少女ローズは父と祖父と一緒に初めての飛行機に乗ってパリへ。だが、着陸したその時、祖父アンドルーは死んでいた。という場面から始まる。

だが、この本の主人公はアンドルーを叔父に持つ電動機製作所の社長チャールズ。この本の最初の4分の1はチャールズの工場が不況のために資金繰りが行き詰まる過程。有能な従業員も解雇しないといけないところまで追い込まれる。銀行の融資も無理。もう従業員の賃金カットが迫られている。

チャールズには資産家の叔父がいる。この工場も叔父が譲ってくれた。だが、病気のために偏屈で資金援助してくれない。もし破産すれば愛しい恋人も失う。もう死んでしまおうか…。
だが、悪魔の考えがひらめく。叔父がちょっと早く今死んでくれれば自分も工場も従業員もみんな救われる。恋人も失わないですむ。叔父の薬に毒薬を混ぜればそのうち死んでくれるのでは?

薬局では青酸カリをなかなか売ってくれない。だが、苦労の末になんとか入手。そして叔父との面会中に手品を使って一瞬で薬を入れ替える。
会社の運営資金も父の残した絵画コレクションを質入れして当面の危機は切り抜けた。息抜きとアリバイ作りのクルーズ船ひとり旅行。

アンドルーが死んだという電報をナポリで受け取る。チャールズは急きょ帰国。検死審問で自殺ということになる。自分が受け取れる遺産が思ってたよりも多いことも知る。

スコットランドヤードのフレンチ警部がやってくる。危機をしのいだかにみえたチャールズは不安になる。執事に決定的な証拠を握られ強請られる。さらなる殺人を犯す。

クロフツの「クロイドン」は倒叙ミステリーで法廷ミステリーで心理スリラーの社会派推理小説。「これで大丈夫」と思っていた主人公がいきなりフレンチ警部に逮捕され裁判へ。
犯罪のあらましが犯人目線で語られたあとに、フレンチ警部がどうやって犯人の目星をつけたのかが語られる。

自分のことなど誰も気に留めてないと思っていても、誰かに強い印象を残している可能性がある。バレないだろうと思っていても、調べる側はそれしかないという道をたどってやって来る…という教訓。ほぼ松本清張の作風。

何か驚くような真実とかあるのかな?と期待しながら最後まで読んだのだが、それほどの驚きはなかったw
ただ、警察もわからないことはわからない。犯人を検挙できればそれでいい。クロフツはチャールズの恐怖を描くがその後は描かない。警察と検察の関係者が優雅に座談会。

クロフツの2番目に有名な傑作という扱いだけど、自分としてはこれは読まなくてもよかったかなというのが感想。ただ、「俺は樽とクロイドンを読んだ」と人に言えるw

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